この夜に限れば、快投よりも大事なミッションがあった。試合を壊さない。救援陣を休ませる。阪神秋山拓巳投手(29)は「大人の投球」に徹し、ヤクルト打線を丁寧にまとめた。

113球を投げ抜き、9回を5失点。18年5月8日巨人戦で完封勝利して以来、812日ぶり6度目の完投勝利を手にした。自身3連勝で今季3勝目。「とりあえずしっかり1人で投げ切れたので良かったです」と冷静に振り返った。

プロ11年目。だてに経験を積んでいない。2回表終了時点で7点リード。2回裏、7番宮本に3ランを浴びても取り乱さなかった。味方が得点を重ねれば重ねるほど、ストライク先行のスタイルを加速させた。

序盤はワインドアップとセットポジションを使い分け、中盤以降はワインドアップを選択。ゆったりした間合いからテンポ良く打たせにかかった。雨脚が強まり、マウンドがぬかるんでも制球を乱さなかった。

味方打線が猛攻を続ける間は無駄にキャッチボールを続けず、三塁ベンチ前で静かに戦況を見守る余裕があった。経験値を感じさせるマウンドさばき。矢野監督からも「最後まで投げてくれたのは明日につながる」と感謝された。

前回21日広島戦は大量リードを背に7回途中4失点。完投できなかった悔しさを胸に今回は9回を投げきったが、納得しない姿が頼もしい。試合終了直後はガッツポーズせず、捕手と静かに拳を合わせただけ。「もっと頑張ります」。17年の12勝投手。理想はもっと高みにある。【佐井陽介】