悔いはない。楽天涌井秀章投手(34)が自身初のノーヒットノーランを残り2アウトで逃したが、被安打1で今季初完封。08年北京五輪をともに戦ったソフトバンク和田との投げ合いを制し、自身初の開幕6連勝を決めた。球場の雰囲気にも流されず、打たせてとる投球で今季最多132球を投げぬいた。首位攻防6連戦を2つ先勝したチームは首位ソフトバンクに並んだ。

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熱気、のち悲鳴-。涌井は球場のそんな空気に比例せず、顔色を変えない。9回1死。代打川島がカウント2-2からの6球目を投じる前に、打席を外した。「嫌な予感がするな」。6球目。直球を詰まらせた。遊撃方向に振り返ると「小深田がいない…」。打球は中前へ。初安打を許した。「やっぱりか~」。マウンドに伊藤投手チーフコーチ、内野手が集まっても軽く返した。後続を連続三振に切り132球で今季初完封。マウンドに集う小深田へ「捕れよ」とジョークを飛ばし、ほおをやや緩めた。

背負った重責が礎だ。横浜高からプロに飛び込み今年で16年目。西武、ロッテでエースを担い、3度の最多勝、1度の沢村賞。栄光への道のりで感じた。「松坂(大輔)さんにずっと憧れがあった。こういうふうになりたいなと思ったのがスタート。他球団のスーパーエースたちと投げ合ううちに、負けても勝っても最後まで投げることにチームの責任を感じた」。1度立ったダイヤモンドの中心は最後まで守り抜く。プライドだ。

だからこそ、勝つために1球1球に魂を込める。相手は、試合前時点で自身と同じく138個の白星(日米通算)を重ねてきたソフトバンク和田。3年ぶりの投げ合いが決まり「久しぶりですね」「お互い楽しみだね」と連絡も交わした。マウンドでも序盤から互いに1歩も引かない。5回に和田が3失点で降板。涌井は6回1死に四球を出すまでパーフェクト。9回2死にこの日最速149キロを計測。「150キロを狙ったけど出なかった」。130球を超えてもスタミナに心配は無用だ。

快挙は逃した。「1回はやってみたい。でもおまけみたいなものだから。西口さんと一緒で9回に打たれるだろうな」と“悲劇”を重ねた先輩と自身を照らし合わせた。「まだまだ伸びしろはあると思う。スピードも出るし、できることはある。1年ごとに突き詰めれば長いことできるし、ノーヒットノーランも完全試合もできる」。今年で34歳。全盛期はこれからだ。【桑原幹久】