広島上本崇司内野手(30)が自身初、チームにとっても今季初となるサヨナラ打を放ち、男泣きした。

同点に追いつかれた9回、1死一、二塁の好機をつくると、ベンチからの「思い切って行け」という声に押され、上本が打席に向かった。「これまでのミスは常に持ちながら。でも冷静に」と阪神岩崎の低めチェンジアップに食らいついた。中堅方向へ上がった打球は、前進守備の中堅・近本手の頭上を越えた。ベンチから走ってくるチームメートの笑顔に、上本は思わず涙を流した。

「ミスを連発していた。これまで頑張ってきて良かった。(僕は)切り替えがへたくそ。周りの人に支えられている」。先輩や首脳陣、裏方らに「切り替えていけよ」「思い切ってやれよ」といつも声をかけてもらった。限られた出場機会でも努力してきた姿を、みんなが見てきた。今季はチームメートとともにグラウンドで行う早出特打も、昨季までは1人、球場内ブルペンで取り組んでいた。ユニホームを脱げば口数は少ないが、グラウンドでは盛り上げ役を担う。そんな上本の日々の姿が、この日のヒーローを囲む歓喜の輪を大きくした。

今季、先発出場数はすでに自己最多。シーズン打席数も自己最多に1と迫るほど、出場機会が増えている。「こんなに試合に出るのは初めてなので、ワンプレーのこわさが身に染みています」。プレー機会が増える分だけミスも目立つ。これまで失策やバント失敗もあった。この日は同点に追いつかれた9回、遊撃守備で一塁へ悪送球。明大の後輩・森下を勝たせたい思いから強引な送球が大きくそれ、打者走者を二塁に進めた。結果フランスアが後続を抑えたものの、阪神の勝ち越しにつながりかねない判断ミスだった。本人も「体勢がバラバラで(球が)抜けてしまった」と試合後に猛省した。

上本の意地が、チームの今季初のサヨナラ勝利を呼んだ。昨年までの切り札的存在から、今季は先発としての役割も担う。「すごくいい経験をさせてもらっている。スタートで出ても、途中で出ても変わらない。1プレー1プレーを必死にやる」。チームとともに、苦い経験を糧に、上本ははい上がっていく。【前原淳】