バックネット裏でノックバットを持った巨人原辰徳監督が、試合前練習でいつも通り選手の動きを見つめている。20日のDeNA戦でチームの連敗を3で止めた畠世周投手は、外野付近でダッシュを繰り返した。6回2安打無失点でつかんだ1099日ぶり勝利。快投の裏にあった原監督からラインで激励されたエピソードには、62歳の指揮官と26歳の投手の垣根を越えたやりとりがあった。

前回登板だった8月22日の広島戦では2回1/3、5失点で降板。2軍への降格が決まった直後、畠のスマートフォンに「プロ野球選手として生きてて奥さんと子供さん幸せにするのに、そんなんでびびっていては恥ずかしい」とメッセージが届いた。1回に鈴木誠に死球を与えて以降内角を攻められず、失点を重ねた。指揮官の言葉には、才能あふれる新婚右腕に奮起を促す思いが詰まっていた。

原監督とライン。還暦を超えた年齢を考えれば意外にも思える組み合わせかもしれないが、第3次政権が発足した昨季からチーム内でも愛用するツールだ。1軍メンバーで構成するライングループ「Gミッション」では、前夜のうちに先発メンバーを伝達する。翌日のスタメンを早く知ることでベテランは体調管理に充てられ、若手は心の準備も整えられる。坂本は先発から外れた試合前練習で走り込みを増やし、長いシーズンを戦う準備に費やしている。

かつて球界の連絡手段といえば電話が主だった。現在は虫垂炎で療養中の元木大介ヘッドコーチは、18年秋にコーチ就任を打診された際のエピソードを披露している。「ゴルフの帰りに原さんからラインがあって、ゴルフの誘いかな? と思って。『来年、ジャイアンツに力を貸してくれ』と書いてあったから、何のことだろう? と。(返事も)ラインで返しました」。

今季初めて観衆の上限を1万9000人に引き上げた東京ドーム。原監督は先発にプロ2年目、20歳の直江を送り込んだ。同じ高卒2年目の戸郷はすでに7勝を挙げ、ブルペンには21歳の大江らも控える。若手とのコミュニケーションにも新たなツールを活用し、原巨人は前に進んでいる。【前田祐輔】