前人未到の偉業と同時に、自身のメモリアルを飾った。巨人菅野智之投手(30)が、7回3失点で04年の近鉄岩隈(現巨人)を超える史上初の開幕投手からの13連勝を達成。昭和、平成、令和と紡がれたプロ野球史に新たな歴史を刻むとともに、平成生まれ初の通算100勝目を挙げた。阪神が引き分け、優勝マジックは「16」。チームも、エースもリーグ連覇へと白星を重ねる。

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子供たちが憧れる漫画のようなストーリーを、菅野が東京ドームのマウンドで描いた。史上初の開幕投手からの13連勝と通算100勝目を同時達成。喜び、感謝の思いを強く抱き、プロ野球人で初めて見る頂に達してもなお、未知なる領域への思いを言葉にした。

菅野 先人たちが築き上げてきた記録は、なかなか抜けないものだと思っていた。更新できてうれしいですし、まだまだ伸ばしていきたいと思っています。

「まだまだ」の思いの裏には、東海大時代に同大OBでロサンゼルス五輪男子柔道金メダリストの山下泰裕氏から聞いた衝撃の言葉がある。「オレは天井を見たことがないんだ」。203連勝のまま引退と圧倒的な強さを誇った同氏だけが見える世界だった。

漫画のような話に言葉を失った。「でも、大会が終わって見たんだよ。畳に自分から寝転がった時にね」。勝負の世界から解き放たれた時、山下氏の目に天井が映った。笑顔の裏に隠された勝ち続ける男の境地。オンリーワンの景色に「ゾクゾクってしたのを今でも鮮明に覚えています」。

大学生からプロへと立場を変えた今、アマチュア時代に「160キロ投げたい」と描いた夢や憧れは隅に置き、勝利を追い求める。「野球でお金をもらうということは、自己満足だけじゃどうにもならないと。160キロ投げたり、すごいボールを投げれば抑える確率は上がると思うんですけど、やっぱり夢を追うにも限界がある」。

苦しみながらも、中盤からはカーブなどで目先を変え、7回3失点でチームを勝利に導いた。「監督もよく言いますけど、『いいボールを投げる寸評会じゃない』と。抑えたピッチャーがえらいと思いますし、どんなにいいボールを投げても、打たれたら元も子もないです」。菅野の目に広がるのは、真っさらな道。無人の中を右腕1本で進み続ける。【久保賢吾】