笑顔での有終の美。広島石原慶幸捕手(41)が球団捕手最多1620試合出場で、現役最終戦を締めくくった。8回表の守備から出場し、インサイドワークの健在ぶりを示すと、プロ野球人生最後の打席は同学年の阪神能見と対戦した。苦しさも、喜びも味わった19年に悔いはなし。球団史にその名を残す名捕手は笑顔のままユニホームを脱ぐ。

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主役は最後まで泣かなかったが、広島の空はセレモニーが終わるまで涙雨が止むことはなかった。今季限りでの現役引退を発表していた石原慶が、19年の現役最後の試合に出場した。「今日でみんなとこうやって野球ができるのが最後なんでね。かみしめながら過ごしてました」。最後まで笑顔のまま、球団捕手最多1620試合目のラストゲームを飾った。

出番は8回の守備からだった。「今までと変わりなく、投げる投手のいいところを引き出せるように」。25年ぶり優勝の16年にフル回転した中田とバッテリーを組み、15球。3者凡退に切った。その裏は無死一塁から最後の打席へ。同学年の能見との直球勝負。カウント1-1から2球ファウルにすると、最後は5球目の145キロを打ち上げ、右飛に倒れた。「本当にいい思い出で、いい最終打席になりました」。スタンドだけでなく、一塁ベンチ、三塁ベンチからの大きな拍手に照れくさそうにヘルメットを掲げた。

最後のメッセージでは何度も医療従事者への感謝を口にした。最後の胴上げもチームメートが赤い手袋を着用していたように、プロ野球人生最後のシーズンは異例ずくめの1年となった。「カープファンというのは温かくて、時には厳しく、本当にパワーと勇気を与えてもらった存在。こういうコロナでファンのありがたみ、大切さはより一層感じましたし、感謝しかないです」。あらためて、プレーしてきた19年間の喜びを感じた。

笑みがこぼれたラストゲームだった。「後悔はあるのはあるんですけど、悔いというのはないです。みんなと一緒に優勝できたこと、みんなと一緒に野球できたことに感謝して、自分の中で一区切りというか、そういう気持ちです」。長い低迷期を過ごし、3連覇の喜びも味わった。広島一筋で過ごした濃密な19年間。充実感と喜びに満ちあふれた表情で、名捕手はグラウンドを去った。【前原淳】

▽広島会沢「いろんなことを教わった方ですし、一言には表せられません。これで最後と思うと、こみ上げてくるものがありました。教えていただいたことは後輩たちにも伝えていければと思います」

▽広島鈴木誠「(プロに)入ったばかりの頃は話しかけられない威圧感、オーラがすごいと思った。でも気さくに声をかけてもらい、食事にも連れていってもらって、いろんなことを教えてもらいました。もちろんさみしいですが、ケガもされて、しんどい思いもされていると思うので、ゆっくりしてほしいです」

▽広島中村祐(先発で6回2失点の力投も4敗目)「(石原慶の引退試合で)バリバリ意識した。お世話になったし、いい試合をして勝って送り出したい思いが強かった。勝てなかったのが一番悔しいです」

▽阪神能見(同学年の石原と対決)「僕は真っすぐと決めていた。いろいろホームランを打たれた記憶もある。僕が先発のときから、石原はずっと先発マスクをかぶっていたし、いろんな思いを持って。同級生がいなくなるのでさみしい気持ちです。最後は僕の勝ち」