4球団競合の末に、ドラフト1位で近大・佐藤輝明内野手(21)が阪神に入団した。日刊スポーツでは誕生から、プロ入りまでの歩みを「佐藤輝ける成長の軌跡」と題し、10回連載でお届けします。【取材・構成=奥田隼人】

    ◇    ◇    ◇     

阪神ドラフト1位の近大・佐藤輝明内野手(21)には、仁川学院時代にマイペースな大物ぶりを物語るエピソードがある。

野球部に入った後は持ち前のセンスを光らせ、1年生から頭角を現した。ただ、即レギュラー獲得とはならなかった。原因はプレー以外にあった。入部当時の部長で現監督の辻元伸一(46)は「時間にもルーズで、なかなか試合に出られなかった。高校野球なので。当時の監督だった中尾部長は、そこは厳しくしていました」と振り返った。

3年生が最後の大会を終え、新チームとなって迎えた最初の練習試合。1年生では輝明だけが、その遠征メンバーに選ばれていた。しかし、当日の朝。集合場所だった学校と自宅が近所だったにもかかわらず、輝明は遠征バスの出発時間に遅れて来た。下級生の役回りだった荷物の積み込みなどを行わず、車内は「上級生を待たすとはどういうことや」という雰囲気が漂った。さらに、遠征先でスパイクを忘れたことも発覚。新チーム初戦から遅刻に忘れ物と“ダブルエラー”を記録し、結局その日は終日審判を務めた。

その後も試合で本塁打を放つなど、レギュラーを張れるだけの能力は示した。それでも翌年3月の対外試合解禁後の初戦、輝明はスタメンから外れた。秋に辻元と入れ替わり、監督から部長となっていた中尾和光(41)は、厳しい冬の練習でアピールしていた2年生にチャンスを与えた。ルーズな生活面が改善されない輝明に、刺激を与える意味合いもあった。輝明はその日の1試合目で代打本塁打を放ち、2試合目と合わせて5打数4安打と結果を残した。試合後、中尾は輝明に「今日、お前が思ったことを言ってみろ」と声を掛けた。しかし、返ってきたのは斜め上の答えだった。

「僕は『1試合目にスタメンで出られなくて悔しい』という答えを期待していました。だから『そういう生活面をキチッとして試合に出て、みんなから任せたぞ、と言われるようになりなさい』と言おうと。だけど彼は『凡退した(2試合目の)1打席が悔しい』って…。そこじゃない! ピントがズレているんですよね(笑い)。お前がチームの中心でやらないといけない、何でオレが4番でスタメンじゃないんだ、ということを思ってくれよと」

結局、その試合以降は結果を残し続け、3年夏の最後まで4番を全うした。中尾は輝明のマイペースな性格を「本人も言っていましたがいい部分もあるし、悪い部分もあると。いい部分では裏表がないから、特別な場面だからといって緊張することなく淡々とやれるんです」と分析した。プロ入り後もいい意味で目立つマイペースさは、当時から健在だった。(敬称略、つづく)