DeNAで初代主将を務めた石川雄洋内野手(34)が現役引退することが18日、分かった。昨秋に戦力外通告を受けたが、NPBで現役続行を希望し、移籍先を探していた。今後は未定。関係者に「まだ動けるし、不思議な感覚。自分が決めたところまでやりきれたので悔いはありません」と話したという。

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石川雄洋と初めて会ったのは、2010年1月。米アリゾナ州での自主トレ中だった。

前年に定位置を確保するなど売り出し中で、名前は耳にしていたが、取材したこともなければ、面識もない。そんな石川から共通の知人を通して同州内の拙宅へ連絡が入った。「シャワーを貸してもらえませんか」。練習後、滞在先に戻ると、浴室の給湯システムが故障したとのこと。天下のプロ野球選手に使っていただくのも少々気が引けたが、断る理由はない。数分後、汗まみれの石川が、玄関の前に立っていた。

名門横浜高からベイスターズ入りした、いわば野球エリート。しかも、長身のイケメンで当時は茶髪だった。だが、外見の印象をよそに、初対面から人懐っこく、礼儀正しい。聞けば「もし野球選手になっていなかったら、幼稚園か保育園の先生になりたかった」と言う。実際、来宅のたびに、頼まれずとも、当時ヨチヨチ歩きだった末娘を抱っこしてあやし、毎回、絵本を読み聞かせていた。その結果、末娘に気に入られ、「初恋の人?」になってしまったらしい。人の心根を見抜く子供の目は、ある意味で記者よりも正確。野球選手以前に、人としての優しさは、間違いなく、球界屈指だった。

12年にDeNA初の主将に指名されたのも、グラウンド上の実績だけでなく、高校の後輩でもあるレイズ筒香が慕うように、石川の人柄ゆえだろう。プロ16年間では、スーパースター級の成績を残したわけではない。だが、老若男女を問わず、誰からも親しまれた「愛されキャラ」の石川だけに、今後はこれまでにない形で球界に恩返しをするに違いない。【米アリゾナ在住、MLB担当=四竈衛】