楽天涌井秀章投手(34)がプロ野球史上49人目の通算150勝を達成した。プロ17年目。今季は自身10度目となる開幕投手を務めるなどチームを支え、節目の勝利にたどり着いた。

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「頑張ってね」。この日の午前中、元ロッテの内竜也氏(35)は1通のメッセージを楽天涌井秀章に送った。その十数時間後、広島戦で今季6勝目を挙げ、通算150勝を達成した。「本当にすごいこと。もちろん『150勝おめでとう』なんですけど、200勝目指して頑張ってほしいです」と祝福の言葉とともに、次なる節目へのエールを送った。

14年に涌井がロッテにFA移籍し、親交が始まった。内氏は並外れた潜在能力を持ちながら、度重なるケガに悩まされる日々。変わるきっかけは「一緒にやろうよ」と誘われた涌井との自主トレだった。

「とにかく、すごい練習量だった。人一倍走る。シーズンに向けた準備の仕方が半端ないなと。ケガもなく、ずっと活躍できている理由がわかったし、1日の過ごし方でこんなに変われるんだなと思った」

シーズン中には、涌井自身が通い続ける治療院を紹介され、体を入念にケア。「僕からは何も言ってないんですけど、ワクが準備してくれた」と体調管理のためのサプリ、右肘のサポーターなどもプレゼントしてくれた。

「ケガが多かった僕を何とか1年間投げさせようとしてくれた。後輩なんですけど、先輩のようにサポートしてくれて。本当にワクのおかげです」

17年には大きな故障もなく、キャリアハイの50試合に登板し、16セーブ。翌18年にはさらに更新する58試合の登板で26セーブを挙げ、自身初のオールスターにも出場した。

忘れられない涌井との継投がある。15年10月6日の楽天戦(当時コボスタ宮城)。勝利投手になれば最多勝が決まる一戦だったが、試合は同点で延長戦へ。ブルペンで待機した内氏は伝え聞いた涌井の言葉に胸が高鳴った。「点が入ったら、内と交代します」。

「タイトルがかかっていたので、最後まで自分でいくんだろうなと思ってたんですけど、最後は内にと託してくれた。信用してくれてるんだなと思って、すごくうれしかった」

延長11回に打線が目覚め、6点を勝ち越し。押し出し四球で1点を勝ち越した瞬間、涌井はベンチ前でのキャッチボールをやめた。11回裏、内氏が2奪三振での3者凡退で締め、最多勝を決めた。

グラウンドではクールでストイックな男だが、野球を離れれば、人間味にあふれ、笑顔の涌井の姿が思い浮かぶ。昨オフ、ロッテから戦力外通告を受けた後も親身になって、進路など相談に乗ってくれた。

「マウンドではポーカーフェースですけど、グラウンドの姿とは180度違います。めっちゃ笑うし、めっちゃしゃべるし、ギャグも言いますし。普段は自分のことよりも周り。僕が引退してからも頻繁に連絡をくれますし、優しくて、情に厚い男です」。【久保賢吾】