リスタートだ。楽天オコエ瑠偉外野手(24)が19年9月26日西武戦以来、2年ぶりの1軍公式戦出場で決勝の先制適時打を放った。2回無死二塁の第1打席で中前へ。昨季は5年目で初の1軍出場なしに終わり、今年2月には左手首の手術も経験。困難にぶつかりながらも、東京五輪女子バスケットボール日本代表として銀メダルを獲得した妹桃仁花(22)にも背中を押され、復活を遂げた。

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派手なガッツポーズも、笑顔もいらない。あごひげを蓄えたオコエが、ベンチへ武骨に右拳を突き上げた。2回無死二塁。松本の外角スライダーを強く中前にはじき、先制適時打。中断期間に存在感を示し、2年ぶりの1軍公式戦。「エキシビションマッチと変わらずにいこうと思った」と初打席で決勝打も過度な喜怒哀楽は伏せ、次を見た。

昨季は5年目で初の1軍出場なし。過去の言動を切り取られた雑音も目に、耳に入った。「去年は正直、精神的にちょっとまいっていた。ヘイトを気にしすぎた」と心を乱し、野球と向き合えない時期もあった。

身近な存在が支えになった。バスケットボールに励む1学年下の妹桃仁花と幼少期から「オコエ兄妹として2人で活躍しよう」と思い続ける。母から「桃仁花が悩んでいる」と言われれば、すぐにスマートフォンを手に取る。「妹と連絡をとる時は、基本悩んでいる時。SNSを見て、いい気分に浸っていればノータッチです」と笑う。

五輪期間中、選手村や開会式の様子を動画で送ってもらい、たわいもないやりとりを重ねた。ただ、エールはSNSも活用し、過度に連絡はしなかった。妹の試合は練習、試合前後に時間をつくり逐一チェック。「色なんかどうでもよくて、オリンピックに出たこと自体すごい。家族がメダルとったことは光栄ですし、うれしく思いますし、リスペクトもしっかりあります」。素直にうれしく、一アスリートとして燃えた。

もう何も怖くない。今は「自分は自分」と割り切れる。オフには「考えが甘い」と口にした石井GM兼監督も「年齢的にもこれから。今までの苦労も悔しさとして持ちつつ、新たな気持ちで今日からスタートしてほしい」と期待を込める。オコエには、激しい外野手争いが待ち受ける。「妹とともに頑張ります」。どんな道も決して回り道ではなかったと、歯を食いしばって証明する。【桑原幹久】