DeNA田中健二朗投手(31)が、12日の阪神戦(横浜)で1092日ぶりに左肘のトミー・ジョン手術から復帰登板した。9回2死から登板し、最後を締めた。川村丈夫投手コーチ(49)が13日の練習後、前日のブルペンの様子を明かした。

8回が終わり、ベンチから打診の電話が鳴った。8-1と7点リード。先発今永昇太の後を継いでシャッケルフォードをマウンドに送ったが、最後の1死を田中健に任せたいという三浦大輔監督の意向を告げられた。「あそこで(シャッケルフォードが)先頭を出していたり、(相手打線が)つながっていたりしたら、話は別になっていた」。念のため、伊勢大夢も同時に待機させた。シャッケルフォードはマルテを左飛、続く大山には投手強襲のゴロに打ち取った。ボールが当たったシャッケルフォードは無傷を主張し、マウンドに居続けるそぶりを見せた。しかし、木塚敦志投手コーチから説明を受けると、ベンチに下がった。

田中健二朗の名前がコールされると、球場が一気に盛り上がった。「健二朗自身が一番、興奮してましたね。今まで見たことないような顔つきで出て行ったのが印象的ですね」。ブルペンにいた他の投手も同じだった。「他のメンバーへの影響はすごく大きくて、ヤス(山崎康晃)だったり、エスキー(エスコバー)だったりが『よく帰ってきたな』という感じの雰囲気がすごくあった」。ブルペンの出口に勢ぞろいし、投手最年長の田中健を見送った。

「いろんな状況が重なった。点差があるからできたし、勝っているところで出せたのが、彼の幸運というか。持っている感じがした。ビハインドだったら、ちょっと違った感じになったかもしれないし」。川村コーチは田中健の持つ「運」を感じていた。そして、ともに過ごした現役時代を思い出していた。「僕も彼と1年だけ現役がかぶっていて。投手では最後の選手です。一緒に走っていた記憶も残っている。親みたいな心境だった」。もちろん成算はありながらも、なんとか抑えることを願っていた。「最後を締めるのが一番いい。回の頭じゃなくて。監督の判断ですね。勝ちゲームの最後を締めるのが最高のシナリオ」だと感じていた。

田中健は、代打の原口に四球を与えたが、続く小野寺を投ゴロに仕留めた。「健二朗の勝負運というか、投手としての何かを感じさせる復帰登板だった。チームの功労者だし。まだまだやってほしいという思いも込めていた」。連投をいとわず、中継ぎでチームを支えてきた左腕の復帰が、無事に済んだ。育成契約となった苦難のリハビリ過程を、チームの誰もが目にしていた。試合終了後は、球場に幸せな雰囲気が漂っていた。

DeNAは17日から、今季最長の10連戦が始まる。「昨日はいろんな条件が重なって、本当にいい復帰マウンドが飾れた。彼の役目は復帰するだけじゃなくて、いいところで投げてほしい投手なので、ここから楽しみ」。川村コーチは緊張感の場面でも投入することを予告した。1992年(平4)のヤクルトは、ベテランの荒木大輔が9月にトミー・ジョン手術から復帰。チームが勢いに乗って、14年ぶりのリーグ制覇を果たした。DeNAは田中健が最後を締めた12日の試合で、クライマックス・シリーズ(CS)の自力進出の可能性が復活した。ベテラン左腕が奇跡への起爆剤となるか。【斎藤直樹】

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