涙、涙だった。ヤクルトは「SMBC日本シリーズ2021」を制し、20年ぶりの日本一を決めた。

試合終了の瞬間は笑顔の選手がほとんどだったが、感情を抑えきれず。人目をはばからず、男泣きする選手が続出した。例年では見られなかった光景。なぜ、選手たちはこれほどまで涙したのか。歓喜の舞台裏に潜入した。

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みんなで泣いた。日本一が決まると、喜びながら目元を拭う選手が出てきた。青木は12回裏の途中ですでにベンチで目を赤らめる“フライング”。山田や村上も大粒の涙を流した。村上は「うれし涙ってしたことないんですけど、こういう感じなんだなって」としみじみ。第6戦で決勝打を打った川端も「本当に泣くつもりはなかったんですけど、涙が止まらなかった」と少し恥ずかしそうに振り返った。

高津監督の言葉が、選手たちの胸を打った。胴上げの直前、指揮官は立ち止まって、選手たちにひと言。「僕たちはチャンピオンだ」と言った。それまで笑顔だったナインも、そこで表情を一変させた。今季要所で鼓舞し続けてきた指揮官の“言葉の力”。その成果は厚い信頼関係となっていた。だから、指揮官からのもうファイティングポーズを解いていいという合図に、選手たちの涙腺は崩壊した。

輪の中心に立った高津監督は「僕は勝って泣かないと決めていた。できるだけみんなを見ないようにしました。僕もうるってきてしまうので」。実はこらえるのに必死だった。選手たちが高津監督を慕ったように、選手たちを思った証しだった。

いいことばかりの1年ではなかった。開幕3連敗でスタート。個人としても不調で結果が出ない時期もある。苦しみ、もがきながら、一枚岩で戦ってきた。努力が最後に報われた。主将の山田は「監督はじめコーチ、選手、裏方さん、このメンバーで一緒にできて良かったなと心から思った」と周りを思った。球団マスコットのつば九郎も、表情こそは変えないものの、感慨深げに球場を歩いた。

喜怒哀楽が激しく出るのもそれだけ本気だから。仲間が打ったときは全員で喜び、負けたときは全員で悔しがった。誤審や相手のヤジにも真っ向から立ち向かった。結果的には2位阪神とゲーム差なしでのリーグ優勝。日本シリーズでも、史上初の全試合2点差以内。紙一重でわずかに上回り続けた。オリックスとの大熱戦も高津監督は「これが日本のプロ野球のあるべき姿。真剣勝負で本当にみんなが心を打たれる、感動するゲームができたのかなと思う」と胸を張った。

全力で駆け抜け、日本一の会見の最後には「我々は勝負の世界で生きていますから、勝ち負けで評価される。一生懸命頑張っている姿をお伝えできたのかな」と言った。選手を感涙させた“言葉の力”の源はその真剣さにあった。【湯本勝大】