“守備の華”とも形容されるショート。このポジションで一時代を築いた日刊スポーツ評論家の宮本慎也氏(51)と鳥谷敬氏(40)が「遊撃論」を繰り広げました。

今の遊撃手たちの傾向から、名手と感じた往年の選手まで。なぜか和田一浩氏(49)も同席してのクロストーク。宮本氏と鳥谷氏が「現役選手で一番うまい」と口をそろえたのは、やはりあの選手でした。【取材・構成=佐井陽介、小島信行】

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【セ遊撃手事情】巨人坂本は不動 広島小園フルイニング出場目指す 阪神中野は出遅れ

【パ遊撃手事情】西武源田は不動の地位 攻守成長の20歳オリックス紅林がレギュラー定着狙う

-今日は遊撃論がテーマです。

鳥谷(以下鳥) よろしくお願いします。

宮本(以下宮) ところでベンちゃん、なんでいるの?(笑い)

和田(以下和) えっと…今日は見学です(笑い)。

-早速本題に入りましょう(笑い)。遊撃手といえば、最近は派手なプレーを好む選手が多い印象があります。

宮 フワッとシングルで捕る選手が多くなっている気がする。

鳥 人工芝の影響も大きいかもしれませんね。アマチュアのグラウンドもどんどん人工芝になってきてるから、そういう捕り方ができてしまうんでしょうね。

宮 シングルハンドにしても、本当にイチかバチかで行きすぎて、後ろにそらす選手が本当に多い。なんとか体をかぶせて後ろにそらさないようにするとか、そういう保険をかけない選手が多いよね。それで思いきりはじいて二塁打にしてしまったり…。「そこはガッチリ行ってくれよ」と思う場面で結構適当に行ったりする。

鳥 みんなグラブさばきは上手なんですけどね。

宮 自分たちは危なくなったらちょっと後ろに下がったりしたけど、今はポーンとはじいてしまうもんね。

鳥 はじき方でいうと、たとえ3個はじいたとしても、3個とも前にはじいたら1個はアウトにできるかもしれないのにな、とは思います。全部捕って投げられたらそれが一番ですけど、グラウンド状態や体調で難しい時もあるじゃないですか。そこで体の前に落とせるか、ですよね。体の向きが投げる方向の一塁へ向いていないから、変な方向へはじいてしまう。はじき方を変えるだけでエラーを減らせるという考え方をしてもいいかなと思います。

-今は勢いよく捕りに行く選手がうまいイメージもありますが、勢いよく行けば当然、はじく確率も増えてしまいますよね。

宮 ボールと衝突してしまいますからね。どれだけ前に出ても、捕る直前はスピードを緩めるもの。この「間」がない選手が多い。「間」がないと前には落とせない。そう考えたら、足が速すぎる選手でうまい遊撃手は意外と少ないかも。

鳥 確かに。

宮 みんな衝突してしまうから。昔でいえばロッテの小坂とか、今でいえば西武の源田なんかは、足が速くてうまい選手という意味では珍しい気がする。もちろんショートの場合は守備範囲が狭すぎたらダメだけど、最近は足が速いショートが多いよね。あまり堅実派がいないイメージ。

鳥 自分たちの上の世代は堅実派の方々が多かったです。宮本さんに小坂さん、井口さん、井端さん。堅実で送球もいい先輩が多かった。でも今は「捕る」と「投げる」がバラバラな選手が多い。ゴロの処理にしても、一連の動作で投げる選手がめちゃくちゃ少なくなりましたね。送球に自信がないから、「捕る」と「投げる」を分けて考える選手が多くなったのかもしれませんけど。もう少し一連の動作を考えるのもアリかなと思います。

宮 確かに「捕る」と「投げる」が別物になっている選手は多いよね。スローイングが良くないとな…。

鳥 スローイングのミスはダメージが大きいですからね。ロッテでは藤岡の送球は良かったですよ。

宮 オリックスの紅林もスローイングが良いね。そういえば、キャンプで阪神の「デスノック」(連続で何百球も左右に振られ続けるノック)を見たけど、あれって練習になるのかな。内野手は投げてアウトを完了させる練習をしないといけない。どれだけ数を受けたって、投げるところまでさせないと絶対にうまくならないと思うんだけどな…。もちろん、他の意図もあるんだろうけどね。

-遊撃の名手といえば誰の名前が挙がりますか?

宮 昔でいえば、大橋穣さんはすごかったらしいよ。阪急時代、西宮球場は内野が土なのに、大橋さんは芝生に守っていたとか。めちゃくちゃ肩が強くて体力もあったみたい。ヤクルトのコーチをやられていた時に聞いたけど、夏場に大橋さんが散歩に行こうと2階から下りてきたら愛犬が隠れるんだって。大橋さんの方が体力があるから(笑い)。昔の映像を見ても本当にうまい。懐が深いし、肩も本当に強かった。でも、自分とかトリの辺りでいえばやっぱり小坂だよね。

鳥 小坂さんはめちゃくちゃうまかったです。

-現役選手では?

宮 そりゃあ、一番うまい選手は源田だよね。

鳥 そう思います。

宮 でも、みんな源田のまねをしようとするけど、実際は巨人坂本の方が堅実だと思うよ。

鳥 坂本は堅実です。

宮 だからアマチュアの選手は、源田よりも坂本をまねした方がいいと思う。もちろん源田はうまいけど、彼にしても基本練習をしっかりできるようになってから自分の形を見つけているわけで。逆シングルがダメだとは思わないし、片手で捕ることも、もちろんOK。昔みたいに何でもかんでも正面に入れ、というのもおかしいけど、その辺のさじ加減も考えながらプレーしてほしいかな。

-若い選手ではどうでしょうか?

宮 誰がいる? 広島小園にDeNA森、阪神中野あたりかな。中野はイチかバチかのビッグプレーが多いタイプ。ただ、彼は送球する時に左手が死んじゃう。壁を作ると引っかかるから、逃がせるようにしているのかな。長くレギュラーを張るんだったら、そういうところも改善していくといいかもね。良い選手だと思うし。若いショート…もっと出てきてほしいね。

鳥 最近、ずっと長く守っているショートに出会っていません。ショートの話をできるのは坂本ぐらい。やっぱり長くレギュラーを張れるショートがどんどん出てきてほしいですよね。

-和田さんはいかがですか?

和 えっ…僕はおとなしくしておきます。今日はオマケですから(笑い)。

一同 爆笑。

◆宮本氏の遊撃守備 遊撃手として1452試合に出場し、ゴールデングラブ賞は97、99~03年に6度受賞。04~05年には463連続守備機会無失策のセ・リーグ記録を樹立(06年に中日井端が更新)。日本代表では04年アテネ五輪で9試合、06年WBCで2試合遊撃手を務めた。

◆鳥谷氏の遊撃守備 遊撃手で1777試合は坂本(巨人=1875試合)に次いで歴代2位。ゴールデングラブ賞は11、13~15年に4度受賞。ロッテ時代の21年には遊撃手史上最年長で開幕スタメン出場。日本代表では二塁手、三塁手の出場が多く、遊撃出場は13年WBCの1試合だった。

◆大橋穣(おおはし・ゆたか)1946年(昭21)5月29日、富山県生まれ。日大三から亜大を経て68年ドラフト1位で東映入団。72年阪急に移籍後、5度リーグ優勝するなど黄金時代の名ショートとして活躍。ベストナイン5度、ダイヤモンドグラブ賞7度。82年に現役引退し、83年から阪急、中日、ヤクルト、台湾統一、韓国SKでコーチを歴任。現役時代は176センチ、78キロ。右投げ右打ち。