ロッテ佐々木朗希投手(20)が、10日のオリックス戦で完全試合を達成した。

幕張在住でロッテファンのデジタル編集部・佐々木一郎部長は、この試合をライトスタンドで観戦していた。完全ファン目線で、現地の様子をリポートする。

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【写真たっぷり詳細ライブ】ロッテ佐々木朗希が完全試合!13連続奪三振の日本記録含む日本最多タイ19奪三振

とんでもない試合を見てしまった。9回表、ロッテファンの興奮は最高潮に達していた。後ろの席の人が「藤岡、緊張しているだろうな…」と祈っていた。エラーでも完全試合は途切れてしまうため、野手の重圧も最高潮に達する。1死後、遊ゴロが飛んだ。藤岡選手は大事にさばいた。

あと1人。杉本選手が代打に送られた。私は思わず「ラスボスが来た」とつぶやいた。昨季何度も痛い目に遭わされたロッテキラー。それでも、この日の佐々木朗投手は相手を寄せ付けなかった。3球三振。幕切れの瞬間を動画に収めながらスマホを構えていた私の目から、自然に涙があふれていた。

試合前、日刊スポーツのロッテ担当・金子記者に「マーくんかすてぃら」を2個差し入れた(今季から50円値上がりした)。私は年間15試合程度、ロッテ戦を観戦する。いつもなら、試合中に差し入れをすることもある。この日は佐々木朗投手が先発するため、記者はイニング間も忙しくなると考えた。仕事の邪魔をしてはいけないので試合前に声をかけたが、まさか、ここまでの事態になるとは思ってもいなかった。

初回、佐々木朗投手が吉田正選手から三振を奪った。昨季455打席で26回しか三振をしていない強打者。珍しいものを見たと、得した気になった。そこから連続奪三振記録が始まった。8連続となったあたりから、「あれ? 日本記録はいくつだっけ?」と気になり始めた。ライトスタンドの後方のビジョンに佐々木朗投手の成績が表示されているため、奪三振を重ねるごとに後ろを振り向いて写真を撮るファンが増えていった。1人が振り返ると、つられるように他のファンも振り向くという連鎖が見られた。

ネットニュースで記録を調べる人が多いためだろう。特にイニング間は、スマホの通信速度が極端に遅くなった。10者連続奪三振で日本新記録-。日刊スポーツのサイトで記録を確認した。速報を書く金子記者や記事をチェックするデスク、編集者のスピード感あふれる仕事を頼もしく感じた。

6回表、紅林選手の中飛で連続奪三振記録は「13」で止まった。打球がインフィールドに飛んだ直後、周囲から「ああ~」とため息がもれた。打者を打ち取った時に、ライトスタンドからため息が出た光景は、初めて見た。

連続奪三振の記録が止まったあたりから、ファンの興味はノーヒットノーランや完全試合に移った。「巨人槙原以来だっけ?」などと確認し合う声が、自然と耳に入ってくる。同時に、私はトイレに立つタイミングを失った。ロッテの攻撃も見たい。この日は、それ以上に守備から目が離せない。そう思っていた時、ロッテ打線が宮城投手をKO。投手交代のタイミングを見計らって、トイレに走った。

同じことを考えるファンが多いのだろう。すでに行列ができていた。しかし、列はどんどん進む。みんな、さっさと用をすませて試合を見たいのだ。1人の滞在時間は圧倒的に短く、高速回転していた。

6-0で迎えた7回裏、ロッテ藤原選手の強烈なゴロを宜保選手が横っ跳びでファインプレー。ヒットを阻止されたが、ライトスタンドのロッテファンから拍手が起きた。攻撃はもう十分-。ロッテファンの心には余裕が生まれつつあり、関心は佐々木朗投手の投球にしぼられていた。

7回の途中、会社の総務部の武井さんから電話が来た。「武井さんも試合経過が気になるのだろうか?」と思いつつ電話を取ると、完全なる業務連絡だった。仕事の連絡なので「チッ、こんな大事な時に」なんて思ってはいけない。気持ちを取り直し、試合に目を向けた。

終盤に向かっていくほどに「西口になるなよ…」という声が周囲から聞かれた。ノーヒットノーランや完全試合をあと1歩で逃した元西武西口文也選手のことを指していたが、そんな心配は無用だった。こうしてプロ野球28年ぶりの完全試合が成し遂げられた。

ヒーローインタビューの後、佐々木朗投手は外野まで足を運び、ライトスタンドに手を振ってくれた。その後、レフトスタンドにもちょこんと頭を下げた。すると、残っていたオリックスファンからも拍手が起きた。

この日はデーゲームだったこともあり、試合後のZOZOマリンスタジアムは「グラウンドウォーク」というイベントが開催された。試合後のグラウンドにファンが入れるのだ。佐々木朗投手の登場曲でもある「今夜このまま」など、あいみょんの楽曲がエンドレスで流れる中、多くの人が余韻に浸り、記念撮影していた。スコアボードは、途中から試合終了時の表示に切り替えてくれた。

実は私、16日のチケットもすでに購入済み。ローテーション通りなら小島投手が先発する。ゲンを担いで、試合前の金子記者に同じものを同じ数だけ差し入れようと考えている。【佐々木一郎】