阪神藤浪晋太郎投手(28)は一瞬、飛球を目で追う作業をためらった。スピンがかかった白球が雨粒をはね飛ばす。ヤクルト村上のサイドステップが視界に入る。左翼ポール際席への着弾をゆっくり確認すると、信じ難い現実に表情を硬直させた。

「失投ではなかったですが、うまくホームランを打たれてしまい、リードを守ることができずに申し訳ないです」

本人の言葉を借りるまでもなく、誰の目にも渾身(こんしん)の1球だった。1点リードの3回2死一塁、フルカウント。4番村上に154キロを外角低めいっぱいに投げきり、見事に払われた。今季4打数無安打と封じ込めていた3冠王に、矢野監督も「打者がうまく打った」と脱帽した逆転2ランを献上。14年ファイナルステージ巨人戦以来8年ぶりのCS白星は夢と消えた。

CS先発自体が15年ファーストステージ巨人戦以来7年ぶり。「早めの継投もあると思っていた。序盤からしっかり強いボールを投げ込む意識でした」。晩秋を思わせる寒さと降雨、ぬかるんだマウンドに懸命にあらがった。1回2死一塁、村上に3球目を投げたところで雨天中断。38分間のブランクを経て村上への四球が暴投となった後、2死一、三塁で5番オスナを中飛に詰まらせた。2回も四球を出しながら無失点。悪天候の中でも粘り腰を見せていただけに、痛恨の被弾も責めきれない。

9月28日、今オフにポスティングシステムを使用して大リーグ移籍を目指す意思を正式表明した。この日はヤンキーススカウトも視察に訪れる中、3回を4奪三振3四球2安打で2失点。120%を出し切れないまま、タテジマの藤浪晋太郎は見納めとなってしまうのか…。ファイナルステージ0勝3敗となったチームはいよいよ崖っぷち。今はただ雪辱の舞台を信じるしかない。【佐井陽介】

○…ヤンキースのアレックス・サンダーランド環太平洋地域プロスカウト(33)が、神宮バックネット裏から試合を視察した。「いろんな選手を見に来た中で、藤浪もその1人」と藤浪の名前を挙げた。ヤクルト村上との対決については「才能ある選手の対決はスカウトにとってもファンにとっても楽しみなこと」。試合途中で視察を切り上げ、球場を後にした。

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