一粒ずつ、ユニホームに深く染みた。打球が三遊間を抜けると中川圭太内野手(26)は拳を握り、高々と掲げた。仲間が全速力でヒーローを追い掛ける。歓喜のシャワーとともに、涙が流れた。

同点の9回2死二、三塁。ソフトバンク守護神モイネロの146キロ内角スライダーに食らいついた。「正直、野球人生で足が一番震えていた」。勝利の立役者は、あふれる思いを隠しきれなかった。

“無敵”の一撃だった。中嶋監督が監督代行に就任した20年8月21日。4番に中川圭を据えた。2軍監督からの愛弟子で「期待しかない。“無敵の中川”を見ていますので」と愛情を注いだ。劇的勝利を決め、2人は熱い抱擁。指揮官は「よぉやった!」とバンバン背中をたたいて褒めた。

信頼関係が生きる。中川圭は内外野を守れ、どの打順にも対応できる「超ユーティリティープレーヤー」。日々スタメンオーダーの変わる「中嶋野球」の申し子は「僕らは監督についていくだけ。恩返しできるように、1球1球、死に物狂いでプレーするだけです」と感謝を忘れない。

今季は自身初の規定打席をクリア。最も成長を実感するのはメンタル面で「その打席で倒れても、また次の打席。冷静に、凡退をどう生かすかを考えられるようになった」と前を向く。

覚悟を決めた1年だった。「悔しすぎて、テレビは見られなかったですね…」。昨季の日本シリーズに背番号67はいなかった。「後悔したくない。だから今年、やるしかない…」。輝く目には闘志が宿っていた。

昨年はロッテにサヨナラドローでCSファイナル突破。2年連続サヨナラゲームで日本シリーズ進出を決めた。相手は昨年敗れたヤクルトだ。予定していなかった胴上げで5度、宙に舞った中嶋監督は「連覇、日本一を目指してやってきた。去年(ヤクルトに)負けたので、今年やり返したい」とリベンジを宣言した。

今季初のチケット完売。今季主催試合最多の3万3717人が京セラドーム大阪に集った。指揮官自ら試合前の円陣で「何試合もあると思うなよ! この試合で行くぞ! 決めるぞ!」とゲキを飛ばし、ナインは期待に応えた。「(10月2日の)優勝インタビューで『いっぱい応援してください!』と言ったので、これだけ入ってくれて本当にうれしい。また皆さんの力を借りると思います。一緒に日本シリーズも戦いましょう!」。目頭を押さえる瞬間が、もう1度訪れる。【真柴健】

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