オリックスに土壇場で球団史上初のサヨナラ弾が出た! 「SMBC日本シリーズ2022」の第5戦。9回に同点に追い付き、なお2死一塁で吉田正尚外野手(29)がヤクルト・マクガフからサヨナラ2ラン。5回にチーム1号、自身シリーズ初のソロを放っていた主砲の一撃は、阪急時代を含めて球団初のシリーズサヨナラ弾となった。これで2勝2敗1分けのタイ。28日は試合がなく、神宮に戻って第6、7戦。26年ぶりの日本一へ望みをつないだ。

   ◇   ◇   ◇

かっ飛ばされた白球が、全ての視線を奪った。球場で真っ先に勝利を確信したのは吉田正だ。右翼5階席への着弾を前に、バットをその場に置き、ゆっくりと歩き出す。自身プロ初のサヨナラ弾に酔いしれた。

「感無量でした! 1球で仕留められてよかったです!」

ナインから浴びるはずのウオーターシャワーは本塁生還の際に“ローリング回避”に成功。もみくちゃの中、白い歯が輝いた。9回に敵失で追い付き、この2ランで2勝2敗1分けとタイに持ち込んだ。「もう1試合1試合やるだけ。勝つためにみんな必死にやってます。一喜一憂せず、切り替えながら」。喜びつつ、冷静さを失わなかった。

猛打を見せた9月。月間打率4割1分3厘、7本塁打、23打点の成績でも、打撃フォームを改良していた。オープンスタンスからスクエアスタンスへ。グリップの位置を深くし、トップのバランスを整えた。調子が出ているにもかかわらず「打撃は生き物だから」と変化を恐れなかった。

5回にも一時勝ち越しとなるシリーズ1号ソロ。第4戦まで2安打で、2度の申告敬遠を含む7四球と勝負を避けられてきた主砲が、一気に燃えた。

シリーズ1試合2発は72年加藤以来、球団4人目。この日の2発の共通項は、「正尚シフト」を敷かれていたこと。三塁村上が遊撃の定位置付近、遊撃手の長岡は二塁ベース後方、二塁手の山田は一、二塁間を詰める形で構えた。打席に入れば、ポジショニングを必ず確認する主砲は、かつてこう語っていた。

「シフト…? 見てますよ。毎回シフトを見て、ここに打とうと考えたら、わなにハマるだけ。ヒットになる場合もあるので、なんとも思わない。強いスイングができれば、野手の間を抜ける。どれだけ強くコンタクトできるか、それだけを考えてます」

どこを守ろうが関係ない。空中戦で無効化してみせた。シリーズは熱を帯びる。29日は神宮で第6戦。中嶋監督は「しびれましたね。はい! もう…助かりました」と賛辞を贈った。選手会長を筆頭にオリックスナインが、頂に歩を進めた。【真柴健】

▼オリックスがサヨナラ勝ちで2勝2敗1分けのタイに戻した。2勝2敗(引き分け含む)のシリーズは16年以来28度目。過去27度のうち、オリックスのように追い付いたチームの優勝は12度でV確率44%になる。サヨナラ勝ちで2勝2敗に追い付いたのは62年東映、64年南海、94年西武、03年阪神、12年日本ハムに次いで6度目。過去5度のうち62年東映と64年南海は日本一になったが、オリックスはどうか。

○…紅林が、反撃の口火を切る適時打を放った。2点を追う4回2死一、二塁でヤクルト山下の直球を中前に運び、1点を返した。「(カウント2-2と)追い込まれていたので、とにかく食らいついていくことだけ考えていましたし、なんとか外野まで抜けてくれてよかったです」。昨年からシリーズ通算5度目のマルチ安打で、2本目の適時打。遊撃守備でも好守を見せ、攻守で奮闘した。

○…先発田嶋は序盤の失点を反省した。1回2死一、二塁でヤクルト5番のオスナに先制打を許し、2回にはサンタナに左中間へソロを浴びた。5回途中に走者を残して降板したが、2番手比嘉が火消しに成功、2失点で終えた。田嶋は「立ち上がりから先制点を許してしまい、苦しいピッチングになってしまいました。後を抑えてくれた比嘉さんもそうですし、野手陣がバックでもり立ててくれていただけに、なんとかもっと粘り強く投げたかったです」と話した。