オヤジの背中が今年も輝いた。球界最年長のヤクルト石川雅規投手(43)が今季3度目の先発で初勝利を挙げ、プロ野球タイ記録となる1年目からの22年連続白星を達成した。

5回1/3、75球を投げ4安打無失点と好投し、チームは2試合連続の完封で連勝した。これでプロ通算184勝。小さな大投手は「ずっと頭の片隅にある」という200勝の大台までまた1つ歩みを進めた。

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サッカーW杯日韓大会で日本中が沸いた年だった。青学大を出たばかりの02年4月4日に初勝利を挙げ、22年もの月日が流れても、石川はマウンドに立っていた。167センチの小さな体を大きく使い「ストレートを両サイドに投げ込むことが出来た」と阪神打線に立ち向かった。そして22年間、欠かすことなく重ねた勝ち星。「1人でできる記録ではない。1番は家族に感謝したい」と目尻にしわをつくり、静かに言った。

この日の最速は134キロだが「球は遅いけど目いっぱい腕を振って、いろんなボールを投げるのが僕の投球」と、110キロのカーブなど緩急を付けた持ち前の技巧派投球で阪神打線を手玉にした。3、4回は先頭に出塁を許しても落ち着き払っていた。4回無死一塁で大山を118キロのカットボールで捕邪飛。佐藤輝は123キロのスライダーで中飛。6番井上は122キロスライダーで左飛に打ち取った。

21年前の初勝利は「必死すぎて覚えていない」と笑う。2年後。長男大耀(だいや)さんが生まれた。その4年後には次男栄寿(えいす)さんも誕生。「子どもが物心つくまで現役でいたい」。それが最初の目標だった。気がつけば長男は大学1年、次男は中学3年になるまで1軍の先発投手で居続けた。

昨夏、大耀さんが東海大高輪台の投手として神宮のマウンドに上がった。東東京大会2回戦で100球未満の完封勝利「マダックス」を達成。石川は息子の勇姿をその場で見届けた。「運良く全試合、応援に行けたんですよ」とベスト16で敗退するまで球場に足を運んだ。

父の背中を追いかけて始めた野球も、大学進学と同時に硬式は引退。「父さんのすごさは小さい頃より、野球を続けてきた今だからこそ、あらためてすごいと感じる」と感謝の言葉をもらった。「僕が投げなくても野球を見に来ますからね。野球を好きになってくれたことは本当にうれしかった」。いくつになっても息子のヒーローでありたかった。

「物心」どころか立派に成長した子どもたちへ、伝えたいメッセージがある。「1試合でも多く1軍のマウンドで投げている姿、勝てなくても、もがいている姿を見てほしい」。人生の厳しさを、父はマウンドで表現していた。【三須一紀】

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