西武平良海馬投手(23)に正念場が訪れた。
7回に日本ハム万波の2ランで逆転され、なおも2死満塁。次の1点はかなり重い。
その時だ。一塁側スタンドの上の方で、黒い野球帽と赤いTシャツの少年が、立ち上がった。数秒間、笑顔でもじもじしながら、最後は前を向いた。
「平良、頑張れ~!!」
両手をメガホンにして、思いの丈を叫んだ。振り絞った勇気に、周囲の大人たちが拍手と声で加勢した。その拍手がやがて、一塁側全体を包んでいった。
空気は当然、マウンドにも伝わっている。
「楽器が聞こえないくらい、声だけの応援というか、そういう感じがしました」
三振で切り抜けた。割れんばかりの拍手と、それさえもかき消すような指笛が響く。沖縄・石垣島出身。平良はヒーローだ。
序盤から155キロ、156キロと球速がかなり出ていた。「今シーズンで一番いい状態だったので」と基本的には自画自賛した。
だからこそ、1球が悔やまれた。万波の2ラン。スライダーだった。
「コースは良かったと思うんですけど、ホームラン王なので。相手もすごい打者なので、しょうがないかなという感じですね」
コースよりも。
「選択は間違ってないかなという気はしますけど、もう少し変化量が曲がっているかとか、そういうのをあとでチェックしたいなと思いますね」
トップクラスの投手と、トップクラスの打者の対決。数センチの差で勝敗が決まることを身に染みている。
もちろん、ファンも。1球に泣いたが、平良海馬の存在が沖縄の中でまた大きくなった。【金子真仁】