<ソフトバンク4-3楽天>◇20日◇福岡ヤフードーム

 王貞治監督(67)が「集大成」と位置付ける今季、ソフトバンクが最高のスタートを切った。楽天戦の9回無死二、三塁から柴原洋外野手(33)が、史上2人目となる「開幕戦逆転サヨナラ本塁打」を放った。試合前に柴原の開幕5番を決断した王監督の采配も的中し、5年ぶりの日本一奪回へ、勢いのつく劇的な勝利となった。

 柴原のひと振りがチームを救った。2点を追う9回無死二、三塁。「積極的に行こう、と。追い込まれたけど、積極的行こうと思った」。カウント2-0からひざ元に沈む136キロのチェンジアップに迷わず反応した。打球は右翼席へ。94年の西武伊東しかいなかった「開幕戦逆転サヨナラ本塁打」を、プロ通算47本塁打の男がやってのけた。

 初の開幕5番だったが、やはり5番に座った15日の横浜戦での失敗が生きた。7回1死一、三塁の好機に、2ストライクまで簡単に見送り、最後はフォークボールで空振り三振に倒れた。「新井さん(打撃コーチ)たちから『5、6番打者は走者がいるときの打撃を考えろ』と言われました。意識が足りない、と」。意地でも走者を進めようとした右翼狙いが本塁打に結びついた。

 実は9回の攻撃前、一塁側ベンチでこの大逆転劇を予言した人物がいた。「多村が出て、松中がつないで、柴原が決めるぞ」。王監督だった。試合前から予感していたのだろう。「5番の候補は柴原、松田、レストビッチの3人いたが『今日は柴原で行く』と王監督が決めた」と秋山チーフコーチは舞台裏を明かした。王監督は「何かを持っている」と、昨季も2本のサヨナラ本塁打を放った柴原の強運ぶりには一目置いていた。「右、左なら松田だけど、柴原は経験があるからね」。868本塁打を放った王監督さえ認める柴原の勝負強さが、5番起用を後押しした。

 試合後、車に乗り込む王監督は思わず立ち止まった。「メガネを忘れてきちゃった。興奮してるのかな」。2年ぶりの開幕戦勝利で、監督として開幕戦通算12勝(6敗1分け)とし、歴代4位タイに浮上した。「開幕戦から大興奮。最初はどうなるかと思ったけどね。山あり谷ありですよ。あと143試合、上がったり、下がったりね」。「勝負の年」と集大成に位置付ける今季、開幕戦から“脚本”通りで発進した。【中村泰三】