日本ハム・ダルビッシュ有投手(22)が、新ルールに“ダメ出し”した。沖縄・名護キャンプで8日、今季初の実戦マウンドのシート打撃に登板。今季から試合時間短縮を狙い適用される「15秒ルール」に違反したと指摘され、激怒した。「あんなん考えられない。野球にならない。こっちは生活がかかっているんで」とまくしたてた。日本代表候補のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)をにらんでの予行演習もそっちのけで、すでに決定事項でもあるルールだが、日本のエースが一石を投じた。

 マウンドを降りてから投じた一石が、この日一番の破壊力だった。ダルビッシュは、遠慮することなく「15秒ルール」を切り捨てた。シート打撃のニ回り目の先頭打者、糸井に4球目を投げようとし、サインに首を振っていた時だった。東二塁塁審が「長い、長い」と注意。すぐさま両手を広げて、お手上げポーズ。導火線に火がつき大噴火し、猛烈に反抗した。

 ダルビッシュ

 率直に言って全球団、全投手が思うと思いますけれど、野球にならない。あんなん考えられない。ボールを捕ってから15秒…、いや話にならない。3回、首振ったらボール。ボール半個、ストライクゾーンを広げた方がよっぽど(試合進行が)早い。

 今季から無走者時に捕手からの返球を受け、15秒以内に投球動作へ入らないとボールを宣告される。近年、球界で取り組んでいる試合時間短縮を目指した一環のルールで、セ、パ両リーグのアグリーメント(申し合わせ事項)として導入が決定した。実戦形式の無走者のケースとはいえ「ロージン(バッグ)を触ったり(野手の守備位置確認で)周りを見たり、いろいろある」と、投手特有のルーティン、準備があると指摘。それらの行動を差し引いて計算し「5秒、3秒で(球種などを)決めろ、と言っても…。こっちも生活がかかっているんで」と、非現実的であると持論を展開した。

 発言力を自認しているからこそ、反対姿勢を明確にした。この日のシート打撃後、投手陣で意見を交換。5年目、22歳と若いが実績NO・1のリーダー的立場として、球界へ物申した。「みんな納得できないと思うから」。スピードアップ化を進める方策ばかりが先行し、野球の妙味の1つである打者との駆け引きが失われかねないと不安を感じた。自身の昨季の先発24試合の平均試合時間はリーグ平均より18分間短い、2時間56分。サイン交換で捕手と意見が合わずに何度も首を振るタイプ。個々の意識、創意工夫で解決できる部分があることを実証しているからこそ、警鐘を鳴らした。

 実戦形式とはいえ、練習メニューであるシート打撃でいきなり運用された。「シートでとるなんてビックリ」と面食らったが、冷静に頑固一徹のポリシーを貫いた。WBCへの調整の場で直面した、思わぬ落とし穴。その糸井には中前打を浴び、続く高口には右前打と連打を浴びた。昼食を済ませてからのマウンドだったが、降板後には選手食堂へ直行。食生活にストイックで知られるが「やけ食い」なのか、なぜか天丼をかきこんだという。稲葉、中田ら主力、注目株を抑えても不快指数は満点の試運転。米国へ旅立つ前に、ダルビッシュが“日本代表”として球界へ、ど真ん中の直球を投げ込んだ。【高山通史】

 [2009年2月9日8時44分

 紙面から]ソーシャルブックマーク