<オールスターゲーム:全パ1-1全セ>◇第1戦◇19日◇札幌ドーム

 7月19日は「大谷記念日」-。投手と野手の「二刀流」に挑戦している日本ハムのルーキー大谷翔平選手(19)が5回から3番手で登板し、1回2安打無失点。プロ最速タイの157キロをマークするなど、全13球が150キロオーバーだった。そのまま「6番左翼」で2打数無安打だったが、本拠地札幌でまさに「翔」タイムを演じた。

 投手で、野手で光り輝いた。初出場のルーキー大谷が、1番星だった。本気で取り組んできた投打の「二刀流」で、オールスターの歴史に足跡を刻んだ。「すごく楽しかったですし、勉強になりました。自分のプレーで、(ファンが)何かを感じてもらえたらうれしいです」。改めて常識を打ち破り、野球少年たちに無限の可能性を示した。

 1、2回をベンチで過ごすと、3回にはブルペンへ。花巻東の先輩・西武菊池と並んで投球練習した。中学時代から憧れ、同校へ進学するきっかけになった大先輩とのひとときは、掛け替えのない時間。「不思議な感じで、新鮮でした」と感慨を胸に、5回からマウンドに上がった。

 1イニング限定と決まっていたため、13球すべて直球勝負。2安打は許したが、無失点に抑えた。ちょうど1年前の7月19日、岩手県大会で160キロをマーク。1年後、オールスターで全13球150キロ超え。DeNA中村の2球目には、プロ入り最速タイの157キロを投げた。「久々に力を入れて投げましたけど、ストライクゾーンにいってよかった。まっすぐでいけたのが大きかった」と手応えを口にした。

 守備でも沸かせた。6回1死二塁。左飛を処理すると、ハーフウエーにいた二塁走者西岡を刺そうと、ノーステップからの好返球でスタンドを沸かせた。バットでは2打数無安打に終わったが、最高のプレゼントももらった。6回の第1打席。DeNA三浦が投じた計測不能の超スローカーブの前に、投ゴロに倒れた。「(投球が)来た瞬間、これテレビで見るやつだな…と思った。個人的には感動しました」。全力投球も、好プレーも凡打も、すべてが貴重な経験だった。

 球場入りの際に背負っているリュックは、活躍するたびに重くなっていく。サイドポケットのファスナーを開けると、そこから「お宝」が顔をのぞかせる。初勝利、2勝目、初ホームランの記念球が無造作に入っているのだ。両親に送るつもりではいるのだが「送る手配をする暇がないです」と言う。一般的な先発ローテ投手であれば、登板後に休養日が設定されており、オフを過ごすことができる。だが「二刀流」をこなすため休日はない。結果的に、肌身離さず持ち歩くことになっている。

 スター選手たちの中で過ごした、貴重な時間。リュックの中身は変わらなくても、胸にはいつまでも消えることのない思い出が、ぎっしりと詰まっていた。【本間翼】

 ▼大谷が5回、打者5人に投げ無失点。高卒新人の登板は07年第2戦田中(楽天)以来12人目だが、初登板は70年第1戦太田(近鉄)99年第1戦松坂(西武)07年田中と、最近は3人続けて失点。デビュー戦で無失点の高卒新人は67年第1戦江夏(阪神)以来、46年ぶりだ。大谷は6回からは左翼。外野を守った高卒新人は初めてになる。同一試合で投手と他のポジションを経験したのは、右翼から投手の96年第2戦イチロー(オリックス)に次いで2人目。同一シリーズでは、イチローのほかに91年工藤(西武)が第1戦で登板し、第2戦の延長12回裏に野手がいなくなり左翼を守ったことがある。

 ◆球宴の球速

 日本人投手では五十嵐(ヤクルト)が03年第2戦(千葉マリン)でカブレラ(西武)に投げ込んだ157キロが球場表示の最速記録。94年には伊良部(ロッテ)が松井(巨人)に投げた直球を西武球場のスコアボードは156キロ、中継したテレビ局では159キロと表示された。外国人投手ではクルーン(巨人)が08年第2戦(横浜)で161キロの最速記録を出している。最近の高卒新人では、99年松坂(西武)が152キロ、07年田中(楽天)が153キロだった。

 ◆球宴の二刀流

 球宴で投手と他の守備位置を1試合でこなしたのは96年第2戦(東京ドーム)のイチロー(オリックス)だけ。全パ仰木監督は9回2死走者なしで打者松井(巨人)を迎えると、ライトを守っていたイチローをマウンドに上げた。これに対し全セ野村監督は「格式の高いイベントを冒涜(ぼうとく)した。松井君が打ち取られたらプライドが傷つく」として代打に投手の高津(ヤクルト)を起用。投手イチローと打者松井の対決は流れた。イチロー対高津の結果は5球目を遊ゴロに打ち取り、最速は2球目の141キロだった。