15日(日本時間16日)に開催されたWBC世界スーパーフェザー級タイトルマッチをメインカードとする興行を、現地の米カリフォルニア州イングルウッド「ザ・フォーラム」で取材した。

 元王者三浦隆司(33=帝拳)が王者ミゲル・ベルチェルト(25=メキシコ)に0-3の判定負けを喫し、惜しくも王座返り咲きはならなかったことは残念だったが、「本場」のファンが求める物を見せたと確信する。その象徴が、ベルチェルトの顔面をギリギリで左拳の一撃がかすめた5回途中、思わず起きた「おおーー!」というざわめきだった。

 「ザ・フォーラム」は長くNBAレイカーズの本拠地として知られ、ボクシングも数々の激闘が切り広げられてきた会場。この日も約8000人が詰め掛けたが、前座試合からファンの求めるものが明確だった。

 まず、クリンチが嫌い。追い詰められて逃げまどう意味で抱きつきにいく選手には、即座に容赦ないブーイングが飛んだ。また、バッティング、後頭部へのパンチなどで試合が止まると、それを起こした選手にはやじも飛ぶ。多くの人が早くからアルコール飲料を飲んでいる酔い気分もあるのかもしれないが、前座から一貫した空気感。ただ、逆に考えればそれだけ試合を見入っているということで、見せてほしいのは打ち合う姿なのだろう。その意志がない、その意志をみせない選手には、手厳しい。

 三浦にもブーイングは飛んだ。ただ、相手のベルチェルトがメキシコ人で、ヒスパニック系住民の多い土地柄、国籍に根ざしたものだった。それは当たり前だろう。しかし、三浦が見せたファイトスタイルへの批判めいたブーイングは一切なかった。うなり声を張り上げ、豪快な一撃を見舞うべく、打たれても前進をやめない。その愚直な姿には決して批判はなかった。それまで「メヒコ(メキシコ)」コールでベルチェルトを応援していたファンが、5回に三浦が放った空振りの一撃で漏らした「おおーー」というざわめきの声は、国籍から離れ、本場のボクシングファンの質を感じさせてくれた。

 ただ勝てばいい。そんなスタンスを絶対に許さない厳しさ。だからこそ、熱い試合が生まれる。それは観客がともに作り出す空間となり、長い年月をかけて「本場」の重み、伝統を培ってきたのだと思う。

 三浦は勝つことはできなかった。ただし、しっかりと熱い試合は見せた。来月にはWBO世界スーパーウエルター級王座決定戦に亀海喜寛、9月にはWBO世界スーパーフライ級王者井上尚弥が、同じ米カリフォルニア州で世界タイトル戦に臨む。その時、どんな「どよめき」が聞こえるのか。楽しみに待ちたい。【阿部健吾】