中学生の時の夢を果たした男の今後はー。

 新日本プロレスの毎年恒例「イッテンヨン」、1月4日の東京ドーム大会は昨年を大きく上回る3万4995人の観客を集め、数々の激闘が繰り広げられた。その中で人一倍思い入れを持ってリングに上がったのは、IWGPヘビー級王座に挑戦した内藤哲也(35)だっただろう。

 中学3年の時、初めて自分でチケットを買って友人たちと見に行ったのが新日本プロレスの興行。「97年の6月5日、日本武道館の2階の後ろから2列目ですね」と明確に思い出せるほど、いまでも心に残る。そこで花道を入場する武藤敬司に衝撃を受けた。サッカー少年は、1人の存在に大観衆の視線が注ぐその舞台に感銘を受けた。そしてその最高峰の会場こそが東京ドームだった。99年に初生観戦。「どの会場よりも花道が長いですよね。あそこを歩いたら気持ちいいんだろうなと思って」。自然に将来の目標は定まった。

 <1>新日本プロレスに入ること

 <2>武藤敬司と同じように20代でIWGPヘビー級のベルトを巻くこと

 <3>東京ドーム大会のメインに出ること

 それから20年あまり。<1>はかない、<2>は30代に少し足を踏み入れたがベルトを巻くことができた。残っていたのが<3>だった。それがかなったのが今年の1月4日。なにしろその花道への思い入れは格別だった。若手時代も1月4日の直前の会場での練習でも、あえて花道をさけてリングに向かった。それだけ大切な場所だった。

 いよいよその時はきた。王者オカダ・カズチカに対峙(たいじ)するリングへ向けて舞台装置から登場すると、ゆっくりと歩を進めた。白い仮面の中からのぞく目で、人生の最良の時間を確かめるように、一歩ずつ一歩ずつ進んだ。中3の時の自分があこがれた存在になった瞬間だった。

 試合には激闘の末に敗れたが、試合後の表情には少なからず達成感も感じさせた。そして新たな野望に胸躍らせるように、ニヤリとしてみせた。

 「非常に悔しいですよ。オカダにも、そしてお客様にもかつて笑われましたよ。『東京ドームのメインが夢か』って。でもさ、これは俺が中学3年生の時に立てた目標だから。これ、俺は大事にしてきたから。誰に笑われようと、大事にしてきた夢だから。まあ、今日、俺は何か1つ、ゴールを迎えたっすかね。まあ、でもそれは、中学3年生の時に立てた目標のゴールであり、今日、ゴールを迎えた時点でまた新しい夢が見えてきましたよ。レスラー内藤哲也としての夢が、出てきましたよ」

 その不敵さは今後の楽しみに昇華した。さっそく翌5日の後楽園ホールの試合後には、世界的なスーパースターで前日のIWGPUSヘビー級選手権で敗れたクリス・ジェリコの襲撃を受け、ここでも不敵に、大胆な態度を崩さずに「トランキーロ」と泰然としてみせた。自らを「おれはベルトを越えているから」と話す無冠の年男は、いったいどんな「次」を見せてくれるのか。【阿部健吾】