3月。春場所真っただ中のエディオンアリーナ大阪1階。観客に混じって会場内に設置してあるテレビで、十両の取組を何げなく立ち見していた。会場隣のコンビニで買ったおにぎりを手にしながらだが、決してサボっていたわけではない。

 「今のいい相撲だったね」

 背後から男性の声が聞こえた。声の主は、木戸(正面入り口でチケットのもぎりを行う仕事)前の宮城野親方(元前頭竹葉山)だった。その後も数番、一緒に取組を見ながら、今のはああでもないこうでもないと話した。その話の流れの中で、弟子の横綱白鵬の体調を伺った。場所前に両足親指の負傷により休場を余儀なくされていたからだ。

 「今日も昼すぎに稽古場来てたよ」

 休場中なのに稽古場? と疑問に思ったが、聞けばリハビリや負傷した箇所に負荷がかからないトレーニングで汗を流していたという。ただ親方にとっては、珍しい光景ではなくいつものことだという。「あんなに努力している力士は他にいない。横綱になってもずっと努力しているし、今もいろいろ悩みながらやっている。だから強いんだよね」。それだけ言って、木戸の仕事へと向かって行った。

 5月。初場所、春場所と2場所連続休場明けから、夏場所出場に踏み切った白鵬。2場所連続休場は自身初。横綱とは言え、土俵勘に不安がないとは言い切れないはず。ただ「現役力士で1番稽古しているのは自分だと思っている」という自負が、白鵬の背中を押した。自他共に認める努力家。しかし復活優勝は逃し、千秋楽で「2場所(連続休場)というのがね。いい勉強になりました」と振り返った。まだまだ進化は止まらない。【佐々木隆史】