人柄の良さと酒好きのオーラは、異国でも自然と伝わったのかもしれない。現役屈指の酒好きとして知られる十両錦木(35=伊勢ノ海)が振り返った、10月ロンドン公演の思い出は、やはり酒にまつわるものばかりだった。「毎日、飲みに行きましたよ。物価が高くて、ビール1杯が1500円ぐらい。だから量は飲めないかなって思ったんですけど、気付いたら現地の人たちがおごってくれて」。日本の巡業中と変わらず、酔っても何とか宿舎に戻って、気付くと朝を迎えた日も少なくなかったという。

取組中以外は、黒縁メガネがトレードマークで、明るい口調と天真爛漫な笑顔が、英国人も引きつけた。「日本でもイギリスでも、基本的に1人で飲みに行きます」。巡業中の醍醐味は「知らない土地で、知らない店にフラッと入って、楽しく飲むこと」と、開拓者精神にあふれている。英国では「さすがに危険な店に行って、事件に巻き込まれたら迷惑をかけるので、行った店は限られました。パブみたいなところです。そこで翻訳アプリを使いながら、知らないイギリス人たちと仲良くなって、おごってもらっちゃいました」と、豪快な日々を送った。

何でも簡単にスマートフォンで検索できる時代に、事前に下調べせず、直感だけを頼りに店選びする。それでも「不思議と“外れ”はないですね。行ったお店は、いつもおいしいし、楽しいです」という。巡業を開催した地方も英国も、力士が客として来店するのは珍しいだけに、腕によりをかけて料理を振る舞っていると想像される。それ以上に、誰とでも楽しく話す錦木のコミュニケーション能力の高さが、楽しい雰囲気をつくり出すのだろう。

この話も、同部屋で好調の前頭藤ノ川の朝稽古取材後に語ってくれた。報道陣の目当てが藤ノ川と予想して「取材してやってください」と、広報役を買って出た。ひとしきり藤ノ川の取材が終わるのを待って、生粋のおしゃべり好きは報道陣と談笑。空気を読み、その場を盛り上げることに、これほど長けた力士は珍しい。土俵外の英国で「SUMO」の、ひいては日本のイメージアップに最も貢献したのは、錦木だったのかもしれない。【高田文太】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「大相撲裏話」)

錦木(25年11月9日撮影)
錦木(25年11月9日撮影)