激闘王が日本から4人目の3階級制覇を成し遂げた。IBF世界ライトフライ級8位八重樫東(32=大橋)は足を使って右ストレートでリードし、強打の王者ハビエル・メンドサ(24=メキシコ)を圧倒。ダウンこそ奪えなかったが、ジャッジ1人がフルマークと大差3-0で判定勝ち。1年前に調整失敗でKO負けも同級にこだわり、再挑戦で雪辱してみせた。11月に亡くした祖母、清水ヨリさんとの約束も果たし、彩夫人の31歳の2日早い誕生祝いにもなった。

 八重樫はリング上で2年越しの願いをかなえた。31日が彩夫人の誕生日。インタビュー中自ら「昨年は渡せず、2日早いですが」と3人の子供を差し置いて赤いベルトを手渡した。家族を大事にし、支えられる王者らしかった。

 7回は急に足が止まり、ロープに詰まった。「ダメかと思った」がここも家族が救ってくれた。11月に母方の祖母ヨリさんが亡くなった。岩手で孫の姿をテレビで見るのが喜びだった。インターバルでセコンドが「ばあちゃんが見てるぞ!」と遺影を見せて奮い立たせた。

 20日が納骨だったが雪で延びた。「どっかで見ていてくれた。ばあちゃんが勝たせてくれた。ベルトを持って今度こそ墓参りにいける」。祖父は07年の世界初挑戦で失敗する前に亡くした。2回も約束を破るわけにはいかなかった。

 判定はジャッジ1人がフルマークなど6~13ポイント差ついた。右ストレートを何十発も当て、5回に左目上から流血させる。最後はフラフラの王者がレフェリーに寄り掛かったところでゴング。快勝に見えたが、初回には口の中を切り、試合後は顔も腫らせた。

 「最後まで怖かった。顔が痛いし、左目は見えないし」。そのインタビュー中に井上が2回KO防衛。「こっちは一生懸命にやっと勝った。若いのに苦労しないと」と思わずぐちが出た。

 1年前は左ボディー1発に沈んだ。昨年9月ゴンサレスに敗戦からどこか気持ちが乗らず、当日は計量から9キロリバウンドして体が動かず。調整失敗の悔いだけが残った。大橋会長は「階級を下げさせすぎた」とかばったが、八重樫は同級にこだわって受け入れてもらった。「この階級でできると証明できたことが一番」と自らへのリベンジも果たせた。

 年末世界戦7試合で唯一の日本人挑戦者で、コブラと呼ばれる王者を打ち破っての3階級制覇だ。初めて不調ならスパーも切り上げ休み、フィジカルトレのコーチも方法も変えた。「ドンピシャで足が動いた」とまだまだ可能性を秘める。大橋会長は日本人初の4階級を期待も「それは結果。誰とでもやります」と、優しきパパは言った。【河合香】

 ◆八重樫東(やえがし・あきら)1983年(昭58)2月25日、岩手・北上市生まれ。黒沢尻工3年で総体、拓大2年で国体優勝。05年3月プロデビュー。06年に東洋太平洋ミニマム級王座獲得。07年の7戦目でWBC世界同級王座挑戦も判定負け。13年にWBCフライ級王座を獲得し、2階級制覇。家族は彩夫人と1男2女。162センチの右ボクサーファイター。

 ◆複数階級制覇 日本のジムからは3階級が最多で八重樫が4人目になる。これまでファイティング原田、井岡弘樹、粟生隆寛、長谷川穂積も挑戦したが失敗した。他に2階級制覇は柴田国明、畑山隆則、戸高秀樹、亀田大毅、井上尚弥と合計9人。世界では6階級が最多でデラホーヤとパッキャオが達成した。5階級はレナード、メイウェザーJrら5人、4階級がジョーンズJrら9人、3階級が日本勢を含めて29人となった。