【カーソン(米カリフォルニア州)25日(日本時間26日)=阿部健吾】直接再戦以外なら引退か。ボクシングの帝拳ジムの本田明彦会長(69)が、進退保留中の前WBC世界バンタム級王者山中慎介(34=帝拳)について、新王者となったルイス・ネリ(メキシコ)との再戦以外に現役続行の選択肢はないと明言した。15日の王座戦で山中の日本記録に並ぶ13度目の防衛を阻んだネリは、その後に試合前のドーピング検査での陽性反応が判明。WBCの裁定次第では王座剥奪の可能性もあり、山中の進退に大きく影響する。

 「非常に限定される」。本田会長は、山中の現役続行の条件をそう述べた。ネリと再び戦うことだけが、現役続行の意味を生み出す。同じ帝拳ジム所属の亀海が戦うWBO世界スーパーウエルター級王座決定戦の計量後、「再戦じゃないと(現役は)やらない。山中もそう思っている」と代弁した。

 状況は不確定だ。WBCは23日、ネリが7月27日の薬物検査で、筋肉増強作用のあるジルパテロールに陽性反応を示したと発表した。残るB検体と試合直後の検体を検査し、結果次第で処分を下す段階にある。

 当該検査はWBCでなく、帝拳ジムがVADA(ボランティア・アンチ・ドーピング協会)に要請したもの。契約条項に「数百万」の費用持ちで加えられ、「抑止力につながる」と実施した。本田会長は以前からメキシコ選手の疑惑のうわさを聞いていたという。対象の薬物は牛肉に含まれる医薬品だが、「医者からは牛1頭分食べないと検出されないと聞いた」と、故意を疑う見解を示した。

 昨年、WBCスーパーフェザー級王者バルガス(メキシコ)は、試合2カ月前にジルパテロールと同じ用途の薬物クレンブテロールに陽性反応を示した。陣営は故意ではないと主張しWBCは再検査の「陰性」を受け初防衛の実施を認めた。だが、本田会長は「前みたいに(処分が)ないということにはならないと思う」と、今回は状況が違うと見通した。

 とすればWBCからネリに処分が下るのは間違いないとみられる。王座剥奪、資格停止などが考えられるが、ネリが王者でなくなりノンタイトル戦となれば山中にとっては価値はなく、再戦の可能性は消える。ネリ以外なら王座決定戦となっても出場意思はない。現役続行の線は厳しくなる。

 WBCでは王座が敗れた元王者に戻ることは基本的にない。本田会長は「WBCがそういう判定をしてもウチは拒否する。負けたんだから」と述べ、「こういうのでなければ辞める方向が強かった。これでどう影響するか」とも明かした。裁定が下るのは2、3週後がめどになる。