3階級王者のWBA・IBF世界バンタム級王者井上尚弥(26=大橋)が真の階級最強王者の称号を手にした。ワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(WBSS)決勝で5階級王者のWBAスーパー王者ノニト・ドネア(36=フィリピン)と対戦。3-0の判定で勝利を飾った。

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もう右目は見えていなかった。井上尚は2回にドネアの左フックで右目上をカットして流血すると「見えない。ドネアが2重に見えた」。キャリア初の目周囲のカットにも動揺しなかった。軽量級レジェンドの底力にも押されたが、11回には左ボディーをねじ込み、ダウンを奪った。「結果的には世代交代できたかな」とほっとしつつ「みなさんの期待するファイトではないと思います。これがボクの実力です」。1年間で王者クラスと3戦を戦い抜き、アリ・トロフィーを手にしても満足しなかった。

5年前の14年11月、横浜市の所属ジムにドネアの訪問を受け、世界戦に向けたアドバイスをもらった。当時、主戦場は2階級も違った。「対戦なんて考えもしなかった」(井上尚)。高校時代からのあこがれであり、ボクシング技術の“教科書”だった存在。試合終了後、2度も抱き合い「メチャメチャ強かった」と敬意を表した。大橋会長は「パンチを効いた尚弥を初めてみたが、そこからダウンを奪った。タフネスもみせられた」と高く評価した。

日本開催となったWBSS決勝で強く「世界」を意識したかった。自らも着用する後援会Tシャツの背中デザインに1つだけ要望を出した。「世界地図を入れてください」と。同トーナメント開幕時に王者不在だったWBCを除き、WBA、WBO、IBFの3団体が参戦した階級最強トーナメントの決勝。米国を中心に数々のビッグマッチを戦ってきたドネアとの「世代交代」を掲げて臨んだ大舞台。「世界」を背負わずにはいられなかった。

試合後、米プロモート大手のトップランク社との複数年契約が正式発表された。井上尚は「自分のキャリアが今後、どのようになるかは把握もしているし、覚悟もしています。厳しい戦いになるけれどクリアしたい」と主戦場を米国とすることに気持ちを引き締めた。井上尚本人が希望するボクシング聖地ラスベガスへの進出が来春にも実現する流れになっている。日本ボクシング史の究極の一戦を制し、モンスターが本格的に米国に乗り込む。【藤中栄二】