新日本プロレスの大張高己社長(46)が日刊スポーツの取材に応じ、コロナ禍の20年と4、5日の東京ドーム大会から始まる21年に向けた思いを語った。

昨年10月の社長就任以前から経営に関わっていた大張氏は、難局をどう乗り越えていったのか、現在も感染拡大が収まらない中、どう向き合いながら運営していくのかを明かしてくれた。【取材・構成=松熊洋介】

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コロナの感染者が増え続ける中、予定通り1月4、5日東京ドーム大会は制限はあるものの、観客を入れて行う。安全面も含め、決断に至った根底には7月から実施してきた有観客の開催で得た手応えがあった。

大張氏 他のスポーツとの交流や情報収集しながら。東京が一番密集度が高いし、不安はあったけど、医者やスポーツ庁や馳浩議員にも相談しながら準備を進めて、7月からやろうと。

プロレスファン歴が40年近い大張氏。十分な収益が得られない中でも、会場に来てもらって生で見てもらうのが一番だという思いは、選手と同じだ。

暗かったのでバレなかったが、実はめちゃくちゃ感動して泣いていた。オープニング曲(ザ・スコアー)が流れて、手拍子が起きる。そこにこもったお客様の気持ちとか、準備してきたときのこととか、中止の決断したときのこととか、全部入って、特別な瞬間だった。1試合目はほとんど見られてないと思う。

7月の再開以来、約70大会を行っても、いまだ会場での感染者は出ていない。さまざまな検査と会食、外出などのルールを設けた。

大張氏 関わる人数が多ければ多いほどリスクが高まる。選手、社員、関係者には申し訳ないくらい厳しいガイドラインを作らせてもらった。

検討を重ね、対策を徹底したのには理由がある。

大張氏 命に関わる病気だし、呼吸がしづらいとか後遺症もある。選手がかかってしまうというのは、そういう意味で絶対に避けたい。選手を守るのが我々の使命。背広着てる人間たちが必死で選手を守るのが我々のルールなので。選手を大事にし、選手が戦ってくれるからこそ事業が続いていく。

さらにルールを守って観戦する観客にも感謝する。

大張氏 プロレスのお客さまがルールを守って、手拍子で応援してくれる。あらゆるスポーツの中で、最もルールに対する意識が高いお客さまなのでは。かつて新日本がなくなってしまうのでは、という時代があった。マイナースポーツだから大事にしないといけないっていう気持ちで見てくれている。仲間を、選手を守ろうという気持ちで、一緒になって戦ってくださっていると思う。

そんな中、満を持して東京ドーム大会を迎える。昨年計7万人を動員した2日間開催を今年も継続する。

(昨年は)直前まで不安だった。チケットの数字を毎日確認しながら、デジタル含め、あらゆるメディアに広告を打ちまくった。相当のお金を使いましたね。でも全力をあげて取り組んで、環境も曜日も良くて手応えを感じた。

スタッフと一緒になって動く前提には、命を懸けて戦う選手のパフォーマンスがある。

大張氏 試合自体が良くて売り方も伴うのが、ビジネス成功の基本。動かない車は誰も買わない。東京ドームでお客さまが見たくなる状態になったというのが一番。

今年は収容人数が限られる中、さまざまな形で全国のファンに興行を届ける。

大張氏 広々使える会場だし、換気も極めていいのでそこは安心。ネットでもTV(深夜)でも見られるし、歴史の証人になりたいという人がそれぞれの環境で見てくれる。新日本に触れてくださる人たちをカウントすると、過去最大の大会になるでしょう。

低迷期を知る選手、スタッフ、そしてファンが、逆境から立ち上がり、ストロングスタイルで支えてきた新日本。三位一体となって、最高の東京ドーム2日間を演出する。

「しびれた」収入大打撃、非興行領域に活路/連載1

◆大張高己(おおばり・たかみ) 1974年(昭49)8月15日、広島県生まれ。少年時代からバレーボール選手として活躍。カリフォルニア大学アーバイン校Paul Merage School of Business卒。97年NTTに入社。18年12月に執行役員としてブシロード入社。19年1月より新日本プロレス経営企画部長、11月より同社米国法人CEOを経て、20年10月、新日本プロレス社長に就任。