日本ボクシング界の「カリスマ」から「モンスター」へ。激アツのエールが送られた。

元WBC世界バンタム級王者辰吉丈一郎(52)が11日、同級の世界4団体王座統一の偉業に挑む井上尚弥(29=大橋)を「文句のつけようがない」と絶賛し「すごいことをやろうとしている。勝つと思うし勝ってほしい」と歴史的な勝利を後押しした。3団体統一王者の井上は13日、東京・有明アリーナでWBO王者ポール・バトラー(34=英国)と対戦する。

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「カリスマ」辰吉も注目している。「俺がこだわってやってた階級やからな」というバンタム級で、井上が世界4団体のベルトを統一しようとしている。「とんでもなくすごいことやんな。ましてや日本人が成し遂げればすごいやん。勝つと思うし勝ってほしいな」と熱いエールを送った。

「バンタム級」といえばファイティング原田に始まり熱狂の系譜を受け継いだのが辰吉だ。91年9月、WBC王者リチャードソンに挑み、当時日本最速の8戦目で世界のベルトを獲得した。その後も亀田興毅が日本選手で初の3階級制覇を成し遂げ、長谷川穂積が10回、「神の左」山中慎介が12回と長期防衛を重ねた名王者を生み出した階級。後輩が挑む新たな偉業に辰吉もワクワク感を隠せない。

井上とは面識もある。「自分から連絡したりとかはないけどね。会えば本当にいい子ですよ」。自身が戦ってきた戦場だけに、その重みが分かる。井上について「(攻守において)全部いいな。文句のつけようがない。とんでもない選手よ」と、あまり他の選手を評しない男が絶賛した。

時代さえ重なれば、全盛期の辰吉と井上が対戦するドリームマッチという妄想もふくらむ。辰吉は「何を言うとるん。親子ほど年が違うんよ。分からん。(もし対戦したらも)想像もしたことないわ」と一笑に付した。会場に出向く予定はないが、バンタム級で世界を極めた先輩として、一ファンとして試合を見守る。

辰吉は2度の眼疾という不運をはねのけ、3度の世界王座奪取という偉業を果たした。その背中を多くのボクサーが追いかけ、「カリスマ」と称される。そんな歴史を踏まえ、井上はさらに異次元の「日本初」に挑む。「絶対に勝ってほしい。勝つと思うけど」。日本ボクシング界の「カリスマ」は、すでに確信していた。【実藤健一】

◆バンタム級 名称は「チャボ」に由来し、リミット53・5キロ。65年5月にファイティング原田がフライ級に続く2階級制覇で、日本選手で初の快挙。「黄金のバンタム」の愛称を持つエデル・ジョフレ(ブラジル)を破り、日本中を熱狂させた。ジョフレは今年10月に他界した。体格的に日本や中南米で目指される、価値ある階級とされる。