五輪ボクシング元金メダリストで、プロでも活躍した桜井孝雄氏が10日、千葉県内の自宅で死去した。70歳だった。桜井氏は中大4年の64年東京五輪バンタム級で今でも日本ボクシング界唯一の金メダルを獲得。65年に三迫ジムからプロデビューし、世界王座にも挑戦した。引退後は東京・築地でジムを経営。ボクシングの普及に努めた。葬儀・告別式は近親者だけで行われる。

 日本のアマチュアボクシング界唯一の五輪金メダリストが、五輪イヤーに帰らぬ人となった。死因は家族の意向があり公表されていないが、関係者によると1年ほど前から体調を崩していたという。アマチュア時代から長く故人の師であった三迫ジムの三迫仁志会長(78)は「昨年11月に会った時には、ずいぶん痩せていた。最後のお別れに来てくれたのかもしれない」と話した。

 プロでは現在も8人が世界王座に就く日本だが、アマチュアでは五輪、世界選手権を通じて世界一になったのは桜井氏だけ。相手に打たせずに打つテクニックは抜群だった。しかし、プロ転向後はアマ時代ほど輝けなかった。世界王者のライオネル・ローズ(オーストラリア)に挑戦したが、判定負け。2回にダウンを奪いながらも後半に消極的になって敗れたことで「安全運転」とやゆされた。

 世界戦こそ、後に「もう少し攻めればよかったかなと思う」と振り返ったが、ボクシングスタイルについては「変えられないし、変えるつもりもなかった」。相手に打たせない冷静なアウトボクシングは決してプロ向きとはいえなかった。それでも、アマ唯一の世界王者として、その功績は色あせることはない。

 会長を務める「ワンツー・スポーツクラブ」は、中高年にも広くボクシングの魅力を伝えるジム。アマチュアボクシングを気にかけ「いつか2人目(の五輪金メダリスト)が誕生してほしい」と話していた。楽しみにしていたロンドン五輪は、天国から見守っている。