横綱鶴竜(33=井筒)が7場所ぶり6度目、名古屋場所としては初の優勝を飾った。1差で追う横綱白鵬と激突。過去7勝41敗と大きく負け越していた天敵を、力強く寄り切った。互いに優勝が懸かる中、千秋楽で対戦するのは4度目だったが、初めて優勝を勝ち取った。相次ぐケガと、今場所直前は腰痛にも見舞われたが克服。歴代10位タイの横綱在位32場所目、幕内出場1000回の節目の日に、自身の令和初優勝を決めた。

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決意の大相撲だった。鶴竜が徹底的に白鵬の苦手をついて、力を出させなかった。立ち合いこそ左に動かれ上手を取られたが、巻き替えて左四つへ。白鵬得意の右四つにさせなかった。さらに相手の左ハズ押しを耐え、隙を突いて右をねじ込み、もろ差しになるや、一気に寄り切った。鶴竜としては今場所最長40秒9。苦杯をなめ続けてきた白鵬との優勝を懸けた千秋楽の一番だけに、時間をかけてでも丁寧に弱点をついた。

7場所ぶりの優勝インタビューでは「ひと味違う優勝でした」と胸を張った。春場所の大阪、九州場所の福岡、東京・両国と3都市では優勝していた。「名古屋ではまだ優勝していなかった。ここ3年間は途中休場。このままじゃ終われないと思っていたので優勝報告ができて最高です」。場内に盛大な拍手が起きた。

今月1日、出稽古先で腰を痛めた。かかりつけの治療院で「何もするな」と指示された。師匠の井筒親方(元関脇逆鉾)は、6日ぶりにまわしを着けた初日を「見切り発車だった」と振り返る。だからこそ省エネを徹底。14日目まで平均5秒7の早い決着だった。同じく平均17秒4(不戦勝を除く)だった白鵬の3分の1以下。場所中、毎朝行っていた土俵での稽古も、初めて1日おきに減らした。疲労の蓄積を避け、白鵬との千秋楽の一番に備えた。

さかのぼれば昨年秋場所後、右足首からかかとにかけての鈍痛に苦しんだ。水がたまり、最も大事にしている下半身強化ができなかった。そんな時に自らの血液を使った最新の再生医療の話を耳にした。未知の医療に抵抗を感じるアスリートも多いが「治るものならどんな治療でも受けたかった」と迷わず選択。幕内1000回出場のこの日、復活優勝につなげた。「腐らずに自分と向き合って、あきらめないでよかった」。横綱在位歴代10位タイの32場所。名横綱の入り口に立った。【高田文太】