大相撲名古屋場所(7月9日初日、ドルフィンズアリーナ)で、豊昇龍(24=立浪)、大栄翔(29=追手風)、若元春(29=荒汐)の3関脇が大関とりに挑む。3人同時に昇進となれば史上初の快挙になる。日刊スポーツでは「歴代大関が語る昇進場所」と題して、大関経験者の親方に、昇進に必要な「心・技・体」を聞いた。第2回は元出島の大鳴戸親方(49)。
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だれも大関とりの場所とは思っていなかった。元出島の大鳴戸親方は三役の2場所で20勝を挙げて1999年名古屋場所に臨んだ。昇進目安の33勝まで13勝。当時、幕内では最多11勝で優勝経験もない。「大関とりの気持ちはまったくなかった。当時の横綱、大関を見たら、自分なんて顔じゃないと思ってた」。
貴乃花、若乃花、曙、武蔵丸の4横綱時代。本来、この場所で大関とりに挑んでいたのは関脇魁皇だった。その魁皇は中日まで6敗。一方で出島は7日目に曙、9日目に貴乃花を撃破。曙らと優勝争いを繰り広げた。
支度部屋での異変を直感したのは、2敗を守っていた13日目あたりから。周りに報道陣が群れだした。
大鳴戸親方 序盤1人、2人が集まるくらいだったけど、終盤はすごい数だった。今の言葉でいうと、メディアも「ワンチャン、あるんじゃない?」と盛り上げてくれたよね。だから自分が大関とりを意識したのは最後の3日間だけ。
曙を1差で追った千秋楽。本割では兄弟子の武蔵丸が1敗の曙を破る援護射撃。2敗同士の優勝決定戦では、持ち前の鋭い出足で押し出し、逆転の初優勝。3場所計33勝の昇進の目安もクリアした。
大鳴戸親方 あの時に「優勝して大関になってやろう」とか思っていたら、できなかったと思う。良い意味で邪念がなかった。
場所中は至って平常心。「飲みに行っても、そこから朝に稽古を欠かさないんだから、元気だったよね」と懐かしんだ。
大関在位は12場所。ケガに苦しみ、頂点には届かなかったが、陥落後も09年名古屋場所での引退まで8年間、48場所も幕内で相撲を取った。
大鳴戸親方 この道を選んだからには誰しもが綱(=横綱)を目指して頑張っている。結果的にそこにはたどり着かなかったけど、限りなく近づけた。勝って当たり前の大関時代は苦でしかなかったが、今振り返れば良い男磨きができた。
豊昇龍、大栄翔、若元春の3関脇が大関とりに挑む名古屋場所。大関とりに必要な「心・技・体」は、「どこが突出してても、どこが欠けてもダメ。その3つがうまくブレンドされた時に人は一番力を発揮する」。大関昇進の可能性は3人以外にもチャンスはある。「逆に4番手、5番手と下からもっと出てきてほしいな」とサプライズを起こした24年前の出島の再来を期待した。【平山連】
◆大鳴戸武春(おおなると・たけはる)本名・出島武春。1974年(昭49)3月21日、石川県金沢市生まれ。中大卒業後に武蔵川部屋に入門し、96年春場所幕下60枚目格付け出しで初土俵。同年秋場所に新十両、97年春場所に新入幕、同年九州場所で新三役(関脇)。99年名古屋場所で初優勝後、大関に昇進。09年名古屋場所を最後に現役引退。通算595勝495敗98休。優勝1回、殊勲賞3回、敢闘賞4回、技能賞3回、金星6個。
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