大相撲名古屋場所(7月9日初日、ドルフィンズアリーナ)で、豊昇龍(24=立浪)、大栄翔(29=追手風)、若元春(29=荒汐)の3関脇が大関とりに挑む。3人同時に昇進となれば史上初の快挙になる。日刊スポーツでは「歴代大関が語る昇進場所」と題して、大関経験者の親方に、昇進に必要な「心・技・体」を聞いた。第8回は元豪栄道の武隈親方(37)。

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昇進に苦労した歴代大関も多いが、代表的な1人が元豪栄道の武隈親方だ。実に14場所連続で関脇の地位を守り続け、14年名古屋場所後に昇進。同場所は優勝した白鵬、鶴竜の2横綱、稀勢の里、琴奨菊の2大関と格上4人を破るなど、12勝3敗の優勝次点だった。ただ、大関とりの名古屋場所に臨む豊昇龍、大栄翔、若元春の3関脇には「同格に負けないことが大事」と力説。昇進に苦労したからこその助言だった。

三役で3場所33勝と、半年間も好調を持続しなければ、大関昇進の目安に到達しない。豪栄道は、大関時代の16年秋場所での全勝優勝が証明するように、爆発力が魅力の力士だった。一方で昇進を果たした際も、3場所合計では32勝。2場所前の春場所で12勝しながら、直前の夏場所は8勝にとどまっていた。8勝のうちには、優勝した白鵬に唯一、土をつける殊勲の星もあった。ただ同格以下の取りこぼしが多かった。昇進に苦労した分、同格以下の取りこぼしが、昇進の明暗を分けると熟知している。

そんな現役時代だったからこそ、武隈親方となった今、大関とり場所で「心技体」のうち、最重要の要素について問うと即答した。

武隈親方 完全に「体」ですよ。大関とり前のこの時期は、とにかく体を極限まで鍛えないと。体を鍛えまくって、稽古で自信をつけていく。「心」は自信がつくことで備わってくる。

14場所連続で関脇の間、2桁白星は5度。7勝止まりで勝ち越せなかった場所も2度あった。チグハグな成績で後悔も多かった。そんな邪念を振り払う意味でも、体を鍛え続けること、四股などの基礎を繰り返す重要性を痛感してきた。

引退から3年半で、大栄翔以外の2人とは対戦経験はない。大栄翔とは現役時代は3勝3敗で、力があることは十分知っている上、埼玉栄高の後輩でもある。

武隈親方 3人の中だったら、どうしても大栄翔に上がってほしいと思っちゃうよ(笑い)。でも、みんな頑張ってほしい。大栄翔の突き、押し、若元春の左四つに比べて、豊昇龍はまだ型という型がない。こうなったら強いという印象を残せば、次につながる。

8勝だった14年夏場所でも、全勝の白鵬を止めた印象的な白星が、昇進した次の名古屋場所で実を結んだ経験があるだけに言葉は熱を帯びた。昇進後は1度も陥落せず、大関の座を33場所守った豪栄道。根底にあるのは“急がば回れ”の精神だ。「体」を鍛えた先に今場所の昇進があると期待していた。【高田文太】

◆武隈豪太郎(たけくま・ごうたろう)本名・沢井豪太郎。1986年(昭61)4月6日、大阪・寝屋川市生まれ。埼玉栄で高校横綱となり、境川部屋入門。05年初場所初土俵。新十両の06年九州場所で本名から「豪栄道」に改名。07年秋場所新入幕。12年夏場所から14年名古屋場所の14場所連続関脇在位は昭和以降最長。14年名古屋場所後に大関昇進。かど番の16年秋場所で全勝優勝。20年初場所後に引退。優勝1回。三賞は殊勲賞5回、敢闘賞3回、技能賞3回。金星1個。

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