大相撲名古屋場所(7月9日初日、ドルフィンズアリーナ)で、豊昇龍(24=立浪)、大栄翔(29=追手風)、若元春(29=荒汐)の3関脇が大関とりに挑む。3人同時に昇進となれば史上初の快挙になる。日刊スポーツでは「歴代大関が語る昇進場所」と題して、大関経験者の親方に、昇進に必要な「心・技・体」を聞いた。第7回は元雅山の二子山親方(45)。

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「個人的にはトリプル昇進を見てみたい。相撲好きの人にとっても、それに立ち会えたら、うれしいと思いますよ」。元大関雅山の二子山親方は、史上初の3人同時大関昇進へのファンの期待をひしひしと感じていた。同時に豊昇龍、大栄翔、若元春の3関脇が、しのぎを削る姿と、自身の現役時代を重ねた。

98年名古屋場所、幕下60枚目格付け出しで初土俵を踏んだ雅山は、わずか2年足らずで大関に昇進した。元横綱の3代目若乃花が引退し「若貴」時代が終わって間もない00年夏場所。小結で12勝、関脇で11勝で迎えた雅山は再び関脇で11勝し、場所後に大関昇進。順風満帆に見えたが、大関とりの場所の初日は、独特だと鮮明に記憶している。

二子山親方 土俵下まで普通だったのに、土俵に立った瞬間、急に緊張してきた。あんなことは初めて。考えがまとまらないうちにフワッと立って、浜ノ嶋関(現尾上親方)に2本入れられた。3分ほどの長い相撲で何とか勝ったけど、取組中は「どう反撃しよう」と、後悔ばかりしていた。

予期しないことが、予期しないタイミングで起きるのが、大関とりの場所特有の現象と今だから分かる。

二子山親方 千秋楽はむしろ落ち着いてできた。勝てば昇進という雰囲気だったし、苦手な貴ノ浪関(故人)だったけど「やり切ろう」とだけ考えていた。

三役で3場所合計34勝。横綱貴乃花の休場も増え始め、次の時代を期待される中、22歳で大関となった。

だがケガもあり、大関在位は8場所だった。それでも再びチャンスは訪れた。最初の大関とりから約6年後、小結で10勝、関脇で14勝して臨んだ06年名古屋場所。関脇で10勝し、6年前と同じ三役で3場所34勝したが、今度は見送られた。

二子山親方 2度目は、場所前から全然眠れなかった。1日2時間。多くて3時間。緊張で昼寝も全然できなかった。ただ3日目の午前10時ごろ、前日ケガした朝赤龍(現高砂親方)が休場と連絡が入った。ケガした朝赤龍には申し訳ないけど「何も考えなくていいんだ」と、初めてぐっすり眠れた。そこから流れが良くなった。昇進できず、次の場所も大関とりだったけど、集大成と思っていたからやり切った感覚だった。

大関とりの明暗を知るだけに「心技体の『心』が大事。技や体力、体格で劣っても、精神面で上回れば勝てる。相撲ほどメンタルが必要な競技はない」と力説する。体調不良で先場所休場の審判部に復帰し、土俵下から心の動きも目を凝らすつもりだ。【高田文太】

◆二子山雅高(ふたごやま・まさたか)本名・竹内雅人。1977年(昭52)7月28日、水戸市生まれ。明大3年で中退し、98年名古屋場所で初土俵。幕下付け出しから史上初の4場所連続優勝を果たし、99年春場所新入幕。00年名古屋場所で昭和以降最速に並ぶ、所要12場所で大関に昇進。01年秋場所を最後に大関陥落後、関脇以下で歴代最多の68場所を務めた。三賞は殊勲賞2回、敢闘賞5回、技能賞1回。金星2個。

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