ちょんまげどころか、史上初のざんばら髪優勝の可能性が残った。幕内2場所目、西前頭5枚目の大の里(23=二所ノ関)が、小結阿炎をはたき込み。3敗を守り、トップの尊富士を1差で追って千秋楽に臨むことになった。千秋楽は大関豊昇龍戦に決まった。所要10場所目で、まだ大銀杏(おおいちょう)を結うことができない尊富士を上回る、同6場所目の大の里。2人に絞られた優勝争いは、どちらが勝っても1914年(大3)5月場所を、同11場所目で制した両国を上回る歴代最速優勝となる。

初めて迎えた春場所で、大の里に偉業のチャンスが訪れた。直前の取組で勝てば優勝の尊富士が敗れた。しかも右足を引きずり、車いすで退場。騒然とする場内でも、大の里は冷静だった。相手のもろ手突きの立ち合いに、上体をのけぞらせながらも相手の動きは見えていた。懐の深さを生かし、前がかりになった相手をはたき込んだ。新入幕の先場所と並ぶ11勝目。初のざんばら髪優勝という快挙が迫ったが「何も考えていないというか『ない』と思っている。欲を出さずに来場所につながる相撲を取りたい」と、冷静に話した。

3敗目を喫した12日目の大関琴ノ若戦後から、優勝について質問は「ない」の一点張りだった。この日の朝稽古後には「優勝はないので土俵下の一番いい場所から、ファン目線で朝乃山関と尊富士関の取組を見ることができるのは楽しみ」とまで話していた。それが1差に迫り、しかも尊富士は右足を負傷した。言葉とは裏腹に、逆転優勝の可能性はがぜん高まった形だ。

千秋楽は豊昇龍戦に決まった。初の大関戦だった先場所は、相手得意の右からの投げに転がされた。今場所は、先場所で4敗したうち阿武咲、琴ノ若に再び敗れた。先場所敗れた照ノ富士は休場しており、今場所の再戦はない。大の里が常々話しているのが「少しでも先場所よりも成長を感じたい」。先場所敗れた相手に、連敗してばかりではいられない-。そう思っていた中で、先場所の借りを返せる最後の、唯一のチャンスが、千秋楽に訪れた。

「去年の今ごろ、ちょうど部屋に入った。その時を思えば、1年後にまさか幕内で優勝を争うなんて考えてもいなかった。まだ着物すら着たことがなかったので」。かみしめるように話したことがあった。先場所に続く2場所連続の優勝争いで実力は本物。日体大で2年連続アマチュア横綱の看板を引っ提げ、幕下10枚目格付け出しデビューから1年。空前絶後の最速優勝で、歴史に名を刻む時が来た。【高田文太】

<千秋楽の行方>

◆尊富士が出場

豪ノ山に○→尊富士が優勝

豪ノ山に●→大の里●で尊富士が優勝

大の里が○→優勝決定戦

◆尊富士が休場

大の里が●→尊富士の優勝

大の里が○→12勝で並ぶも決定戦不戦勝で大の里優勝

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