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主演男優賞ー笑福亭鶴瓶「ディア・ドクター」

【授賞式記事】

 鶴瓶は緊張していた。控室でもほとんど飲食せず、壇上に上がった時は「よう分からんようになった」という。「期待されそうやけど、おもしろいことは言えない。ほんっとにこんな席に上がれるとは思ってなかったので」とまじめにスピーチ。ただ、いつもの目尻を下げた笑みで、周囲に緊張を感じさせなかった。

 だが、壇上で間近にいた中居だけは鶴瓶の異変に気付いていた。表彰盾を渡した後、「(鶴瓶は)震えてました。あんなことはめったにない。この賞の重みを感じたんじゃないでしょうか」と打ち明けた。しかし壇上では鶴瓶に「スピーチ全然、おもしろくなかったですよ」と小声でささやいた。鶴瓶も笑顔で「何やねん」と返し、じゃれ合った。さらに中居は「調子に乗るタイプだから、人間変わりますよ」とちゃかし、鶴瓶も「変わりません ! 」と叫んだ。緊張はほぐれた。何度も共演した2人だからこその、思いやりだった。

 昨年の授賞式の主演男優賞は、SMAP木村拓哉から中居への表彰だった。中居は「今年もうちのメンバーだったらいいなと思ったんですけど、似ても似つかないメンバーで」と笑わせた。鶴瓶をからかいながらも「メンバー」という言葉を使ったことに、親しみと近しさを感じさせた。鶴瓶は授賞式後に「これでSMAPの一員になれました。これ、ちゃんと書いておいてや」と言い笑った。

 鶴瓶は今回の受賞が大きな刺激になった。「映画って、2カ月も3カ月もかかるけど、作って1年たってもこうやって見てくれる人がいて、世界にも出て行く。50万人動員して、見た人が元気になるってすごいこと。『映画ってこういうことか』ってやっと分かりました」。これまでも、何度か映画出演はあったが「テレビに出てるし、(出演すれば)ちょっと(作品が)派手になるからやろって、疑ってた」そうだ。

 しかし「ディア・―」で映画作りに本気で取り組んだ。「今まで『鶴瓶が必要やから』と言ってくれた人を疑ってたことを、ほんまに悪かったって思う。映画を作る人たちは本当に、映画で元気にしたいと思ってる人たちやって分かった」と言った。

 この受賞を本業の落語にも還元していく。50歳になって新たに落語のスタートを切って8年。鶴瓶は「最初はどうなるか分からんかったけど、いろいろなことができると分かった。この賞を引っさげていきたい。もちろん調子に乗ったらアカンし、そんなことしたら裕次郎さんに悪いから、品格を考えてな」と話した。

 「ディア・―」の鶴瓶は、多くの俳優に刺激を与えた。公開後、三浦友和、津川雅彦らから「良かった」と連絡があったという。もちろん、中居も例外ではなく「あの年で汗をかいているのはすてき。落ち着いていこうかなと思っていましたが、僕もしっかり汗をかこうかな」と話した。鶴瓶には周囲を巻き込む力がある。【小林千穂】

[2009年12月29日 紙面から]

 ◆笑福亭鶴瓶(しょうふくてい・つるべ)本名・駿河学。1951年(昭和26)12月23日、大阪生まれ。72年に6代目笑福亭松鶴に入門。テレビやラジオなどで人気になり、第一線で活躍。落語では東西、協会を超えた「六人の会」のメンバー。07年「鶴瓶のらくだ」ツアーで全国を回り成功を収め、来年WHITEツアー第2弾を行う。役者としては、来年1月30日に山田洋次監督、吉永小百合共演の「おとうと」が公開。テレビのレギュラー番組は「鶴瓶の家族に乾杯」「笑っていいとも!」「ザ!世界仰天ニュース」「A―Studio」など多数。

 ◆「ディア・ドクター」 山あいの小さな村にある診療所。唯一の医師、伊野治(笑福亭鶴瓶)は村人から慕われる存在だ。看護師の大竹(余貴美子)と訪問診療に走り回る日々を送っている。都会から赴任してきた研修医の相馬(瑛太)は戸惑いながらも、伊野を尊敬するようになる。そんな中、伊野は診療を拒む鳥飼かづ子(八千草薫)のことが気にかかっていた。

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石原裕次郎賞・石原裕次郎新人賞とは
 1987年(昭和62)に亡くなった、戦後を代表するスター石原裕次郎さんの遺志を引き継ぎ、日刊スポーツ映画大賞に併設。石原プロモーションが運営に全面協力している。その年に最もファンの支持を得て、スケールの大きな作品に贈られるのが石原裕次郎賞。裕次郎さんをほうふつとさせる将来性豊かな、映画デビュー5年以内の新人に贈られるのが、石原裕次郎新人賞(今回は該当者なし)。賞金は各300万円、100万円。




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