この映画が公開された6月7日、リーアム・ニーソンは67歳になった。

新作「スノー・ロワイヤル」の舞台は米コロラド州のスキー・リゾート、キーホー。演じるのは模範市民賞を受賞した生真面目な除雪作業員だ。「演技派」と言われた40代のイメージに戻り、久々の文芸作品かと思えば、さにあらず。人違いで殺された1人息子のかたきを取るため、麻薬組織に1人立ち向かう物語だ。

最愛の人のために孤軍奮闘する不屈の男。まさにリーアムのためのストーリーである。一面の雪景色、「武器」にすると、かなり怖い除雪車…背景や道具立ては新鮮だ。

巧みな格闘シーンが注目されるようになったのは08年の「96時間」からだから、「アクション・スター」歴は10年ちょっと。俳優人生の3分の1にすぎないと聞くとちょっと意外だ。

昨年3月、「トレイン・ミッション」のPRで来日したリーアムにインタビューする機会があった。

すっかり定着したイメージについては「『96時間』をきっかけにハリウッドは僕にアクションヒーローのレッテルを貼ってしまったんだ。スタント担当者との打ち合わせやリハーサルは楽しいけれど、もともとアクション俳優志望というわけじゃないんだよ」と苦笑していた。

一方で銃規制の推進派として知られ「アクション映画には欠かせないけれど、撃つにはやむにやまれない状況がなければいけないと思っている」と明かした。

今回は除雪作業員という役柄もあって、もっぱら武器は鉄拳。たまりにたまった末の怒りの爆発という筋立てなのだが、いったん爆発した後の「暴走」がすさまじい。

麻薬組織は、ボスに至るまでに何人もの障壁が存在するから、リーアムはまるでゲームのステージをクリアするように進んでいく。その後は文字通り死屍累々で、今作のリーアムは「やむにやまれない」という戒めを途中から解いてしまったようにも見える。

監督のハンス・ペテル・モランドはノルウェーの鬼才と呼ばれているそうで、怪作「ファイティング・ダディ 怒りの除雪車」(14年)をセルフ・リメークしたのが今作である。プロデューサーはタランティーノ作品を手掛けてきたマイケル・シャンバーグで、狂気を突き抜けてしまうような空気は、今までのリーアム作品にはなかったものだ。

敵役の麻薬王にふんしたトム・ベイトマンの過剰なとんがりぶりが面白い。ネーティブ・アメリカンのもう1人の麻薬王を演じるトム・ジャクソンには貫禄がある。そして主人公の妻役はローラ・ダーンである。

リーアムはリーアムのままなのだが、周囲の味付けで今回はひと味違ったアクション映画に仕上がっている。

【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)