伝説のミュージカル映画をスティーブン・スピルバーグ監督が60年ぶりにリメークした。同監督は「私のキャリアの集大成」とまで言い切っている。というわけで、昨年末に行われた「ウエスト・サイド・ストーリー」(11日公開)の大スクリーン試写会に期待を膨らませながら出掛けた。

61年にやはり大劇場で行われたオリジナル版(旧作)の披露試写会は早朝だったという。小林信彦さんが自伝的小説「夢の砦」の中で、この時の胸躍る様子を活写している。評論家などの試写会族には朝弱い人が多いので、映画会社は勝負作をあえて早朝に行って注目を喚起することがあったのだ。

私が映画記者になった80年以降も幾度か早朝試写会を経験している。今回は夜の通常開催だったが、会場には久々早朝試写に似たざわざわ感があった。

映画は街を俯瞰(ふかん)するプロローグから、「ジェットソング」でキレキレに幕を開ける。WOWOWがいいタイミングで放送したこともあり、旧作を改めてチェックしておいたので違いがよく分かった。

同じセットでも、ロバート・ワイズ=ジェローム・ロビンス共同監督の旧作はあえて舞台装置っぽい雰囲気を漂わせていたが、今回は現代のテクノロジーによる自在なカメラアングルも手伝ってリアルな「街中」を映し出す。肉体の躍動をアップし、引きで街の息づく様子を伝える。

このダイナミックな演出は、中盤の「アメリカ」でもっとも顕著で、旧作では屋上に限られていたダンスシーンが街頭に繰り出し、街行く人々を巻き込み、大きな人の輪が出来上がる。

旧作のキャストでは、敵役ベルナルドを演じたジョージ・チャキリスの存在感が圧倒的だった。79年のテレビ・ノーカット放送(TBS系)でも、時のスター沢田研二がこの役を吹き替えている。

今作ではキューバ系のデヴィッド・アルヴァレスがこのキーマンを演じており、トニー賞主演男優賞受賞者らしく、チャキリスに負けないキレのあるダンスを披露する。現代風というべきか、角が取れてソフトなたたずまいも印象的だ。彼に限らず、今回の出演者は映画的に知られた人は少ないが、誰もが舞台キャリアを極めていて、歌と踊りにすきが無い。

旧作では解釈しだいというほのめかし風だった人種やジェンダーの問題提起部分は、スピルバーグ流にべったりと上書きされ、セリフの端々でその輪郭が明確に浮き上がる。また、全体に漂っていた乾いた感じがかなりウエットな人情物語に置き換えられている。好みの問題だろうが、この部分は旧作に分がある気がした。

旧作でベルナルドの恋人アニータを演じたリタ・モレノが、たまり場のドラッグストアのオーナー役として、今回もメイン・キャストの一角を担っている。アニータ役アリアナ・デポーズとの新旧競演シーンや、終盤でヒロイン・カップルの心情を代弁して歌い上げるところなど、見せ場もたっぷりだ。

アニータは旧作でもっとも好きなキャラクターだったので、このオマージュ部分は何ともうれしかった。

旧作より5分だけ長い2時間37分は、文字通りあっという間だった。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)