台湾で日本人が神様として祀(まつ)られている。それも軍服を着た姿で。植民地統治をしていた日本の軍人がなぜ? ドキュメンタリー「軍服を着た神様」(8月1日公開)では、そんな不思議を映像作家の遠藤協さんと文化人類学者の藤野陽平さんがひもといていく。

旧日本軍のパイロット、杉浦茂峰を祀っでいるのは台南郊外にある飛虎将軍廟(びょう)だ。杉浦は終戦近い1944年10月に、来襲した米軍を迎え撃ち、墜落死した。地元民の被害を避けるために人けの無い場所を目指し、自らのパラシュート脱出の機会を逸したと伝えられている。

台湾最南端の屏東県にある東龍宮に祀られている北川直征将軍は、古く1874年の台湾出兵で最初の戦死者となった北川直征とされている。

このような「日本神」は台湾各地に50カ所以上あるという。地元の人に愛される理由がありそうな軍人、そんな理由の見当たらない軍人…それでも、鎮座した軍人像に現地の人々は真剣に祈りをささげている。

台湾独特の信仰の中で「正神」とあがめられる、いわば「きちんとした神」とは違い、日本神の多くはまだ神の世界では修行途中の「陰神」であることが、作品の進行とともに明かされていく。

「正神」にはとてもお願いできないような、例えば宝くじ当選のような欲のからんだ祈りを受ける神なのである。なにしろ「陰神」だから、大当たりした場合には、それなりの寄進をしなければ、たたられてしまうかもしれない。だから良く当たる日本神のほこらはどんどん立派になり、やがては「正神」に格上げされるというシステムがあるという。恐れと現世利益を絡めた現地の人々の微妙な距離の取り方が見えてくる。

シャーマンとして東龍宮の日本神の「代弁」をしている石羅界さんという女性が主要な登場人物となっている。彼女が案内するコウモリ洞窟、それがかつて日本軍の軍事施設であったことも作品中で明かされる。カメラは神が彼女に憑依(ひょうい)した様子も追う。その間はいっさいまばたきせず、付き添いの女性が時折涙をふく。なかなかリアルだ。

北川将軍こと北川直征の子孫である北川一家が東龍宮を訪れる場面がクライマックスで、北川直征から6代下となる男児、征志郎クンと石さんが交流する様子が興味深かった。

先祖が大切に祀られていることを素直に喜ぶ北川一家と、「陰神」として接してきた石さんの感覚には微妙なズレがある。それでも和気あいあいとした互いにウソはない。国際交流とはこういうものか、と改めて思った。

コロナ禍をはさんで6年に及んだ撮影の中身は濃い。観光ではあまり足を運ぶ機会のない台湾の田舎の風景も新鮮だった。【相原斎】