94年、人気ラッパーの2パックがラスベガスで銃撃され、死亡する事件が起きる。その3年後、今度はそのライバルであったノトーリアス・B.I.G.(ビギー)がロサンゼルスで銃撃を受け、死亡する。

ビギーがラスベガスの現場に居合わせて2パック襲撃への関与がウワサされたことや、2パック所属のデス・ロウ・レコードの設立者、シュグ・ナイトがストリートギャング出身だったことから「報復殺人」として全米の注目を集める。

「報復の構図」が見え隠れしながら、四半世紀を経てこの2つの殺人事件は未解決のままだ。なぜ、解明されないのか。ビギー殺害には実はデス・ロウの意を受けた現役警官が関わり、その背後にはロサンゼルス市警の根絶しがたい闇があるから-「L.A.コールドケース」(5日公開)は、ジャーナリスト、ランドール・サリバンのノンフィクションを下敷きに、そんな視点からこの事件を掘り下げている。

主人公は実在の元ロス市警刑事ラッセル・プール。捜査手腕に優れ、良心的であるがゆえ、事件の真相に迫った末に市警内に居場所を失う。それでも真相究明の手を緩めない彼は地位も名誉も家族も失ってしまう。実際にプールに面会したプロデューサーのミリアム・シーガルは「ごく普通の人。純粋に善い行いをしようとする人。あった瞬間に彼のことが好きになった」と振り返る。

派手な事件の真相に迫る地味な元刑事という図式だ。周囲の個性的なキャラクターに埋没してしまいそうな、ある意味ユニークと言っていいこの主演キャラをジョニー・デップが喜々として演じている。「普通の人間」の魅力がジワリとにじみ出るような好演だ。

行き詰まりを感じていたプールを刺激し、良きパートナーとなる記者ジャックにフォレスト・ウィテカー。こちらもこの事件の解明で、スランプを乗り越えようとあがく姿を人間くさく演じている。

「リンカーン弁護士」(11年)や「ランナー、ランナー」(13年)で知られるブラッド・ファーマン監督は、真相が見えたかと思えば組織の壁が立ちはだかる一進一退の展開をスリリングに描く。記録映像を織り交ぜ、市警の「闇」に居合わせる目撃エピソードなど、「実録感」を随所に織り込んでいる。

いわば終わりのない真相究明に映画はどう決着をつけるのか。もどかしいエンディングを想像したが、意外な爽快感があった。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)