序盤のパーティー・シーンにいきなりやられてしまう。ゴージャスと言うよりはクレイジーだ。

着飾った人たちに半裸状態のパーティー・ガールやボーイたちが絡み付く。全員が酒とクスリで陶酔状態。倒れ込んでくる人々や飛んでくるモノをよけながらジャズバンドは演奏を続ける。最後は本物の巨象が会場を練り歩いて…。

「ラ・ラ・ランド」のデイミアン・チャゼル監督の新作「バビロン」(2月10日公開)はハリウッド黄金時代の狂騒をにおうように描いている。

プロダクション・デザイナーのフロレンシア・マーティンは「チャゼル監督は最初から、よくあるような『古風な雰囲気の映画』は作りたくないと明言していました」と明かしている。ファンタジックな「ラ・ラ・ランド」とは趣を変え、その2年前に撮った「セッション」(14年)の狂気を思いっきりグレードアップした感じと言ったらいいだろうか。

狂乱パーティーの主役はサイレント映画の大スター、ブラッド・ピットふんするジャックだ。実は周囲の称賛にいつも疑問を抱き、親友のプロデューサー、ジョージ(ルーカス・ハース)の助言だけが頼りだ。

裏口からパーティーに入り込み、チャンスをつかむ新進女優ネリーにマーゴット・ロビー。彼女に一目ぼれし、こちらはジャックの気まぐれから製作アシスタントとして映画スタジオの一員となるメキシコ系の青年マニーをディエゴ・カルバが演じる。

映画はジャック、ネリー、マニーの3人が黄金期の栄華に浴し、トーキー時代の到来に翻弄(ほんろう)される姿を追っていく。

主演俳優が泥酔しようが、エキストラに死者が出ようが続く撮影…だが、日没の一瞬をとらえてフィルムに切り取られたクライマックスの何と美しいことか。チャゼル監督は、黄金期の撮影現場から生まれる良くもあしくも「これぞ映画」というエピソードを印象的につづる。

一方で、トーキーの登場とともに映画が芸術として洗練されるに従って、奔放に生きてきたジャックは窮屈さを感じ、ネリーは「粗野な声」をあげつらわれる。流れに乗るかに見えたマニーもネリーに引きずられるように足を踏み外していき…。時代転換のきしみがキャラの立った登場人物たちを通して伝わってくる。

大ベテランのジーン・スマートふんするゴシップ・ライターが狂言回しのように、登場人物たちを映画史に重ねて見せてくれる。さらに、時代の流れにも揺るがないアートの象徴として、随所に印象を残すトランペット吹きシドニーをジョヴァン・アデボが好演。この2人が3時間を超える作品にテンポを与えている。

中年になったマニーが、すっかり様変わりしたハリウッドの映画館に入る終盤シーンに「ニュー・シネマ・パラダイス」を思いだし、ホロッとなった。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)

(C)2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved
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