「アラジンと魔法のランプ」をモチーフに、「マッドマックス」のジョージ・ミラー監督が思いっきりイマジネーションを膨らませている。
「アラビアンナイト 三千年の願い」(23日公開)は、イスラムの説話集を現代につなげた英作家A・S・バイアットの短編「ザ・ジン・イン・ザ・ナイチンゲールズ・アイ」を元にしたファンタジーだ。
物語論(ナラトロジー)の専門家アリシア(ティルダ・スウィントン)は講演のためにトルコ・イスタンブールを訪れる。独特な街の雰囲気に想像力豊かな彼女は「幻覚」を見るようになる。ホテルの部屋では、みやげものに買ったガラスの小ビンがふいに開き、巨大な魔人(イドリス・エルバ)が現れた。「解放してくれたお礼に3つの願いをかなえよう」。誰もが知るあのセリフ。いぶかる彼女に魔人は自身の3000年の体験を語り始めるが…
「神話は科学に取って代わられ、神々や魔物はさまざまな事象の比喩として使われる存在に成り下がる」
その研究フィールドをいわば自虐的に語るアリシアは「独身中年」を謳歌(おうか)しているのだ、と自分に言い聞かせながら、どこか心もとない。妄想体質で、時折人には見えないモノが見える。ミラー監督はそんな彼女の妄想を織り込みながら、現実世界のリミッターを少しずつ外し、時空を超えた魔人の物語にいざなっていく。
旧約聖書にあるソロモン王とシバの女王の物語を、魔人は定説とは真逆(まぎゃく)の角度から語る。好奇心は押さえられず、アリシアの目はしだいに魔人を「男性」としてとらえ始める。ビンへの幽閉と解放を繰り返しながら、魔人の話は、イスタンブールゆかりのオスマン帝国を舞台に進行する。
「マッドマックス 怒りのデス・ロード」(15年)のスタッフが集い、セットも人物造形も凝っていて、オスマン帝国の石造りの街は血と汗の臭いを感じさせる。
アリシアが小ビンを買ったのは市内の観光名所グランバザールだ。珍品が目を引く骨董(こっとう)店、聞いたこともない香辛料を売る専門店、現代的にアレンジされた「アラビアン・デザイン」を売る店…。迷路のようなアーケードは延々と続く。幻想の入り口にはもってこいだ。
ミラー監督もその魅力にとらわれたようで、アリシアと小ビンの魔法めいた出会いの描写が効いている。アリシアと魔人の間で生じる共鳴と違和感が、東西文化が入り交じるこの街の成り立ちに見事なほど重なっている。
夜間シーンが多く、随所に「マッドマックス」のデストピアを連想させるが、すべてのエピソードは「愛」にたどり着き、見終わった後には心が温かくなる不思議な作品だ。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)




