23年にわたって権力の座にあるロシア・プーチン大統領(70)の出発点をとらえたドキュメンタリー映画が公開される。
「プーチンより愛を込めて」(21日公開)で、世紀の代わり目に重なった大統領就任期にプーチン氏のPR動画を撮影したヴィタリー・マンスキー監督が、当時の映像を編集し直した作品だ。ウクライナ侵攻後にプーチン氏が主張したさまざまな理屈に後付け感が拭えない理由が、この作品から伝わってくる。
1999年の大みそか、ロシア連邦初代大統領エリツィン氏が辞任を発表し、後継にプーチン氏を指名する。地味な存在だったプーチン氏がいつの間にか首相となった同年8月から時を置かずにチェチェン独立派武装勢力によるテロ事件がタイミング良く? 起こり、「決然とした対応」が支持を集めた背景があった。
一躍時の人となっていたプーチン氏。それでもマンスキー監督のカメラは「大みそかにプーチンの演説は聞きたくないね」とつぶやく若者の声も拾っている。
3カ月後に大統領選挙を控えながら、プーチン氏は出馬声明もせず、公約を明らかにしない。カメラはエリツィン氏の代理として各地に足を運び、諸問題に向き合う実務者プーチンを追う。確かに映像に記録された40代のやり手の政治家は魅力的だ。一方で、恩師との再会シーンでは、褒めそやし、ほおずりする高齢の女性教師に対し、若き候補者の覚めた感じは否めない。
なし崩し的な選挙戦の勝利。マンスキー監督はエリツィン氏の自宅で、家族と共にプーチン氏からの電話報告を待つ前大統領の表情を追う。が、数時間待っても連絡は来ない。平静を装う表情がかえって哀れで、踏み台にされた男を印象づける。
就任後、新大統領は共産党の懐柔に加え「強いロシア」を強調するために、旧ソ連国歌を復活させる。脱ソビエト化を進めてきた前大統領とは正反対の方針。再び自宅でこのことを聞かれたエリツィン氏はしばし無言の後、「赤だ」とだけ苦々しくつぶやく。公約無しに強大な権力を手にしたプーチン氏は文字通りフリーハンドなのだ。
カメラはいかにも忍耐強そうな当時の労働者、市民の表情をとらえ、マンスキー監督は「私たちは進んでプーチンの人質となったのだ」とナレーションをかぶせる。
今となっては皮肉にしか思えないが、移動の車中でプーチン氏が民主主義の効用を語るシーンもある。
「私が民間人に返った時に誇れる国、暮らしやすい国にしたい」
プーチン氏はさっそく大統領経験者とその一族の生活を保障する大統領令に署名する。前大統領の「汚職」を不問にする一方で、自身が退いた後の保身のためとも言われた。
終わりの見えないウクライナ侵攻で、戦争犯罪で国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状を出された現在のプーチン氏にとって。この大統領令はどれほどの効用があるだろうか。
少なくとも「民間人」に返って悠然と暮らすプーチン氏は想像しにくい。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)




