ベトナム帰還兵の自伝を原作に、「鉄男」の塚本晋也監督が戦争の罪深さを改めて突きつける。

「ネルソンさん、あなたは人を殺しましたか?」(9月11日公開)は、ブロードウェイの重鎮ロドニー・ヒックスやオスカー俳優のジェフリー・ラッシュらを迎え、ニューヨーク、ベトナムなどでロケを敢行。塚本監督史上ないようなスケールで撮影されている。

監督は作品資料の中で「多くのノンフィクションは被害者の目線で描いてますが、この原作は加害者の目線で描かれていた。戦場での加害を包み隠さず全部書いている内容に衝撃を受けました」と明かしている。

映画はニューヨークの廃ビルで暮らす23歳のホームレス青年の日常から始まる。18歳で従軍した彼はPTSDを患い、周囲の人たちの善意で命をつないでいる。ちなみに今ではすっかり認知されたこの病もベトナム帰還兵への対応をきっかけに定義されたという。

映画は、しだいに社会生活に復帰しながらも決して晴れない心の闇に加え、回想シーンでは戦地の地獄絵図を容赦なく描いていく。

ベトナムに派遣された兵士は貧しさゆえに志願した有色人種の若者が多数を占めていた。沖縄のキャンプ・ハンセンでは銃器はもちろん、ナイフや素手で敵の息の根を止める方法をたたき込まれる。そのうっぷんもあるのだろうが、休日には基地の外で蛮行に及ぶ様子が描かれる。すでに加害は始まっている。

戦地では茂みや地中トンネルから突然現れるベトコンの恐怖が生々しい。その恐れが兵士の肌に染み付く様子が伝わってくる。女性や子ども、老人を皆殺しにするサーチ・アンド・デストロイ作戦がまるでドキュメンタリーのように再現される。

米国人の視点で撮られた「ディア・ハンター」や「プラトーン」も思い出すが、より突き放し、決して目をそらさない監督の姿勢がズンと重い。

原作者アレン・ネルソンの行動を追い、沖縄、ベトナムでの晩年の講演の様子も描かれる。終生逃れられない加害の重さが伝わる。今も海の向こうの戦禍のニュースは日々絶えない。被害の甚大さはもちろんだが、そこでも「ネルソンさん」が量産されていることを想像すると、暗たんたる気持ちになる。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)