現地時間2月28日に開催された今年のゴールデン・グローブ賞の授賞式は、色々な意味で例年とは異なる異例ずくめとなりました。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で史上初めてロサンゼルスとニューヨークの東西両海岸から中継をつないで行われたこと。感染予防対策のため司会を務めたティナ・フェイはニューヨークから、エイミー・ポーラはロサンゼルスからの出演となり、ノミネートされたセレブたちはリモートでの出演になったこと。さらに例年なら食事やワインに舌鼓を打ちながら式を楽しむスターたちで賑わっていた会場に招待されたのはコロナ禍の最前線で活躍する医療従事者らだったことなどは、ウィズ・コロナ時代を反映したコロナ禍らしい授賞式と言えるでしょう。しかし、それとは別に直前に発覚したある問題も今年の授賞式に大きな影を落としていました。

その問題の一つが、ロサンゼルス(LA)・タイムズ紙の報道でゴールデン・グローブ賞を主催するハリウッド外国人記者協会(HFPA)の会員に黒人が一人もいないことが明るみになったことでした。アカデミー賞の俳優部門にノミネートされた20人全員が白人だったことが批判されるなどハリウッドでは近年、白人男性優位や多様性の欠如が問題視され、アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーも多様性改革に取り組んでいる中、HFPAは87人の会員の中に黒人ジャーナリストが一人もいないことが発覚。多様性の欠如による賞の選考に疑問を呈する声が上がったのです。ハリウッド外国人記者協会という言葉から分かるように、会員はハリウッドを拠点に映画取材する世界各国の外国人記者たちで構成されており、日本人の会員も3名います。1940年代に設立され、今年で78回を迎える授賞式は歴史が長いだけでなく、アカデミー賞のノミネーションが発表される直前に開催されることもあり、受賞した作品や俳優は「ゴールデン・グローブ受賞」「ゴールデン・グローブ賞●冠達成」などと大々的に宣伝されることから一般の人にも注目されやすい賞でもあります。

そんな権威のある映画賞を選考する会員に人種的な偏りがあれば、当然ながら受賞結果に影響を及ぼす可能性があると考える人は少なくなく、実際に今年もTVシリーズの女優部門ノミネートは白人ばかりで高い評価を得ていた黒人女優数名が選考から漏れたことや外国語映画賞にノミネートされた「ミナリ」で演技が絶賛された韓国系のユン・ヨジョンが主演女優にノミネートされなかったことなども疑問視されていました。そのため、報道を受けてSNSではハッシュタグ#TimesUpGlobesがトレンド入りし、「マ・レイニーのブラックボトム」でドラマ部門主演女優賞にノミネートされていたヴィオラ・デイヴィスやスターリング・ブラウンらがHFPAに改革を求める投稿をするなど、業界内からも批判の声が上がり、授賞式前から大きな問題としてメディアを賑わせていました。

批判を受けてHFPAはさっそく、黒人ジャーナリストを会員に迎えて改革に取り組むことを発表しましたが、授賞式では司会の2人が冒頭でこの問題をネタにしたトークを展開。評価の高かったスパイク・リー監督の「ザ・ファイブ・ブラッズ」が選考から漏れたことも批判される中、「多くの黒人俳優や黒人による作品がノミネートされなかった」と語り、黒人の会員がいないことにも言及して「改革が必要」と訴える場面もありました。

もう一つの問題が、HFPAのメンバー約30人がTVドラマシリーズのミュージカル・コメディ部門で作品賞にノミネートされた「エミリー、パリに行く」の取材で制作会社から高級接待を受けていた疑惑が浮上したことです。LAタイムズ紙が、2019年にフランス・パリの撮影セットの取材に参加したメンバーが1泊1400ドル以上する高級ホテルに宿泊するなどラグジュアリーな取材旅行という名の接待を受けていたと報じたのです。作品賞以外に主演のリリー・コリンズもノミネートを果たしていましたが、結果的にはいずれも受賞にはいたりませんでした。しかし、この問題を巡っても一部ファンからは「ノミネートに値するほどの作品ではない」と疑問視する声が出ていたこともあり、報道後は公平性を問う声も多く上がっています。報道によると、HFPAの会員は公平性を保つために1つの作品につき125ドル以上の価値があるものを受け取ることは禁止されているそうですが、業界内では会員向けの記者会見が別枠で設定されるなど取材面で優遇されることが多いHFPAについてその厚遇は度々話題になっており、今回の報道で改めて選考の公平性にも焦点が当てられることとなりました。

こうした批判を受けてか、授賞式では多様性を印象付けるいくつかのサプライズ発表もありました。もっとも大きなサプライズは、映画のドラマ部門で有力候補だったフランシス・マクドーマンド(「ノマドランド」)らを抑えて「ユナイテッド・ステーツvs ビリー・ホリデイ」で伝説のジャズシンガー、ビリー・ホリデイを演じたアンドラ・デイが主演女優賞を受賞したことです。また、ドラマ部門の主演男優賞は昨年8月に大腸がんのために亡くなったチャドウィック・ボーズマンさんが遺作となった「マ・レイニーのブラックボトム」で受賞を果たし、主演賞で黒人がW受賞する快挙を達成。さらに助演男優賞に輝いたのも「ジューダス・アンド・ブラック・メサイア」の黒人のダニエル・カイヤーで、黒人の活躍が目立つ結果になりました。また、セリフの半分以上が韓国語だという理由からアメリカ映画であるにも関わらず作品賞ではなく、外国語映画賞でノミネートされて物議を醸した韓国からアメリカに移住した一家を描いた「ミナリ」は、同賞を受賞。さらにドラマ部門で作品賞を受賞した「ノマドランド」でメガホンを取った中国系のクロエ・ジャオ監督が、アジア人系女性として初となる監督賞にも輝き、偶然にも全体的にマイノリティに焦点が当たる授賞式になりました。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)