モントリオール五輪(1976年)の陸上男子十種競技金メダリストで、ケンダル・ジェンナーとカイリー・ジェンナー姉妹の実父ケイトリン・ジェンナーが、カリフォルニア州知事選への出馬を表明しました。

キム・カーダシアンの義父としても知られるジェンナーは、2015年にトランスジェンダーであることをカミングアウトして、ブルース・ジェンナーから名前を改名しており、当選すればアメリカで初のトランスジェンダー知事となります。

金メダル獲得後に引退したジェンナーは、1980年には映画「ミュージック・ミュージック」で俳優デビューし、その後はテレビドラマなどにも出演。2度の離婚後に有名なO・J・シンプソン事件の弁護団の1人して知られるロバート・カーダシアン氏の元妻クリス・ジェンナーと91年に再婚し、コートニー、キム、クロエらカーダシアン家の4人の子供たちを含む10人の子供を抱える一家の大黒柱となりました。

カーダシアン一家の私生活に密着したリアリティ番組「カーダシアン家のお騒がせライフ」にも出演しているジェンナーは、15年に離婚を発表すると同時に自身がトランスジェンダーであることをテレビのインタビューで告白。その後、ヴァニティ・フェア誌の表紙で性転換手術を受けて女性になった姿を初披露して大きな話題となり、現在はトランスジェンダー活動家しても活躍しています。

カリフォルニア州知事を巡っては、新型コロナウイルスの感染対策が厳しすぎると共和党支持者を中心に批判が高まっている民主党のニューサム知事のリコールを求める署名集めで、住民投票を実施するのに必要な数の署名が集まったことからリコール投票が現実味を帯びています。現時点で正式に承認はされていないものの、すでにジェンナーを含め数人が立候補を表明しており、早ければ近秋にも投票が行われる可能性が高まっています。

カリフォルニア州知事当時のシュワルツェネッガー氏(04年11月撮影)
カリフォルニア州知事当時のシュワルツェネッガー氏(04年11月撮影)

カリフォルニア州では2003年にも当時のデービス知事に対するリコール投票が行われ、アーノルド・シュワルツェネッガーが立候補して当選したこともあり、再びセレブ知事がリコールで誕生するのか全米が注目しています。

シュワルツェネッガー以外にも俳優から大統領なったロナルド・レーガン氏やリアリティ番組で人気を博したトランプ前大統領、市長やミネソタ州知事を務めた元プロレスラーで俳優としても映画やテレビで活躍したジェシー・ベンチュラ、カリフォルニア州カーメル市の市長になったクリント・イーストウッドら政治家になったセレブは多くいますが、著名人の政治家転身には「経験不足」「政治の素人」といった批判的な声も多く聞かれます。

最近では、「セックス・アンド・ザ・シティ(SATC)」のミランダ役でおなじみのシンシア・ニクソンが、18年のニューヨーク州知事選での民主党候補者を決める予備選でクオモ現知事に敗れています。さらにトランプ氏が大統領だった4年間の混乱やメディアとの対立などで著名人の政治家転身はよりハードルが高くなったという声もあり、今はセレブという肩書が逆風になる可能性もあります。

一方で大差をつけて当選し、その後7年間に渡って知事を務めたシュワルツェネッガーは、共和党員でありながら環境問題に取り組み、同性婚を成立させるなどリベラルな政策にも尽力したことで知られており、民主党の地盤であるカリフォルニア州では民主党員とうまく渡り合うとも必要です。

ジェンナーは長年の共和党支持者として知られ、ボディビルダーからアクション俳優に転身して州知事になったシュワルツェネッガーとはアスリート出身という共通点もあり、トランスジェンダーの政治家としてLGBTQ(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー・クエスチョンの頭文字をとった性的マイノリティの総称)問題への取り組みなどにも期待が持てますが、政治家としての資質は未知数。

分断を深めたトランプ氏とは一線を画すシュワルツェネッガーは先輩として、「どこに向かいたいのか明確なビジョンを持つことが必要」とアドバイスを送っていますが、コロナ対策以外にも増え続けるホームレスや移民、気候変動などカリフォルニア州が抱える様々な問題にどう取り組むのか具体的な政策を示すことが今後の課題となりそうです。

リコール投票が実施されても政治的な考え方や立場が異なるカーダシアン家の人々や実娘たちが選挙戦で表立ってジェンナーを応援することはなく、エンターテイメント化した選挙戦にはならないと見られていますが、今後の展開に注目が集まっています。【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)