アカデミー賞の前哨戦として注目される北米最大の映画祭「トロント国際映画祭」が5日に開幕し、今年の賞レースがスタートしました。1976年に始まった同映画祭は、審査員ではなく観客が投票で最高賞「ピープルズチョイス賞」を選ぶのが特徴で、会期中に上映されるすべての長編映画が対象となっています。映画ファン自らが好みの作品を選べることや、ハリウッドの大作の出品が多く、豪華スターたちがレッドカーペットに集結することなどで人気を博し、毎年およそ70万人の来場者を動員しています。

来年3月に行われるアカデミー賞の行方を占う上でも重要視される今年のトロント国際映画祭には、日本からも第98回アカデミー賞国際長編映画賞の日本代表作品に決まった「国宝」や細田守監督の最新アニメ「果てしなきスカーレット」、カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に選出された早川千絵監督の「ルノワール」、俳優二宮和也主演の「8番出口」などが出品されており、14日に発表される最高賞を競います。

今年のトロント国際映画祭で注目の話題作を紹介します。

「クリスティ」

ハリウッドで今もっとも注目される若手女優シドニー・スウィーニーが、驚きの肉体改造を行って臨んだ実在する伝説ボクサーを演じた「クリスティ」は、5日にワールドプレミアされ、早くもオスカー有力候補の呼び声が上がっています。セクシー系女優スウィーニーが、トレーニングと食事によってムキムキの筋肉質な肉体を手に入れ、80年代後半に女性プロボクサーとして活躍したクリスティ・マーチンの波乱に満ちた半生を見事に演じています。

「レンタル・ファミリー」

6日にワールドプレミアされた「レンタル・ファミリー」は、2023年に「ザ・ホエール」でアカデミー賞主演男優賞を受賞したブレンダン・フレイザーを主演に迎え、全編日本で撮影された話題作。フレイザー演じるレンタル・ファミリーの仕事をしながら日本で暮らすアメリカ人俳優が主人公で、ベルリン国際映画祭のパノラマ部門で観客賞を受賞した「37セカンズ」(2020年)などで知られるHIKARI監督がメガホンを取っています。

ブレンダン・フレイザー(2023年4月撮影)
ブレンダン・フレイザー(2023年4月撮影)

「グッド・フォーチュン」

キアヌ・リーブスが天使を演じるコメディ「グッド・フォーチュン」は、17日にワールドプレミアを予定しています。俳優でコメディアンのアジズ・アンサリの初監督作で、リーブス演じるドジな天使ガブリエルが人生は金がすべてではないと教えるために生活に困窮する日雇い労働者と大富豪の人生を入れ替える物語です。

キアヌ・リーブス(2019年9月撮影)
キアヌ・リーブス(2019年9月撮影)

「ハムネット」

2020年のトロント国際映画祭で観客賞を受賞した「ノマドランド」のクロエ・ジャオ監督の最新作「ハムレット」も注目作品の一つです。シェイクスピアの戯曲「ハムレット」誕生に基づくマギー・オファーレル氏による小説が原作で、ジャオ監督にとってはマーベル映画「エターナルズ」(21年)以来4年ぶりとなる待望作です。

「ウェイク・アップ・デッドマン:ア・ナイブズ・アウト・ミステリー」

ダニエル・クレイグ主演のミステリーシリーズ「ナイブズ・アウト」第3弾は、同映画祭で3作品連続となるワールドプレミアが6日に行われました。ライアン・ジョンソン監督がメガホンを取り、クレイグが風変りな名探偵を演じる本作は、「名探偵と刃の館の秘密」(2019年)、「グラス・オニオン」(2022年)に続く待望の新作で、過去の作品とは一線を画す暗いトーンになっています。

ダニエル・クレイグ(08年11月撮影)
ダニエル・クレイグ(08年11月撮影)

「ボイス・オブ・ヒンド・ラジャブ」

ベネチア国際映画祭で次点の審査員賞を受賞した昨年1月にイスラエル軍によって殺害された6歳のパレスチナ人少女ヒンド・ラジャブさんを描いた「ボイス・オブ・ヒンド・ラジャブ」は、上映後24分間に渡ってスタンディングオベーションが止むことなく続いたと伝えられています。パレスチナ自治区ガザ地区で避難中に攻撃を受け、生き残ったラジャブさんが車内から助けを求めて赤新月社にかけた電話の「声」を題材にしており、トロント国際映画祭では13日に上映が予定されています。

「パレスチナ36」

パレスチナ問題に注目が集まる中、ドバイのアンネマリー・ジャシール監督がメガホンを取ったエルサレム郊外を舞台にした「パレスチナ36」も5日にワールドプレミアされました。イギリス委任統治下で激しく揺れ動く1936年のパレスチナと反ユダヤ主義によってヨーロッパから逃れてきたユダヤ人移民がアラブの地付近で足場を築いていく様子を描いています。オスカー俳優ジェレミー・アイアンズやドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」で知られるリーアム・カニンガムらが出演しています。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)