待った甲斐(かい)があった。初日の6月24日の前日(23日)、9カ月遅れで幕を開けた劇団四季ミュージカル「アナと雪の女王」のプレビューを見て、そんな思いがこみ上げた。

冒頭のしっかり者のヤングエルサと好奇心旺盛なヤングアナのほほえましい姉妹の姿から引き込まれた。子役のアナが歌う「雪だるまつくろう」の優しいメロディーが頭の中で何度もリフレインした。プロジェクションマッピングなどを駆使した映像とライティングで雪と氷の世界を見事に舞台に再現した。何よりも、岡本瑞恵エルサが自らの魔法の力に悩みながら、勇気を持って踏み出そうとする姿や、三平果歩アナの姉を心から慕うストレートな思いと、山男クリストフ(神永東吾)や雪だるまオラフ(小林英恵、パペット操作が絶妙)と交わす軽妙なやりとりに何度も笑った。圧巻は1幕最後で岡本エルサが歌う「ありのままで」。力強く、心にまで響く歌声に打ちのめされた。2幕で岡本エルサが切々と歌う「モンスター」は舞台用に新しく追加されたナンバーだけれど、心の葛藤を描いてドラマチックだった。

本来なら昨年9月に新劇場のこけら落とし公演として開幕の予定だったが、コロナ禍で6月24日初日に変更となった。変更が決まった後も、2度目、3度目の緊急事態宣言もあって、海外のクリエーティブスタッフの来日も不透明で、予定通り初日を迎えられるか危ぶまれた時期もあった。前売り券の発売はいつもなら数カ月前に行われるが、今回は約1カ月前の5月30日だった。

アニメ映画版で訳詞を担当し、「レット・イット・ゴー」を「ありのままで」と訳してアナ雪ブームに一役買い、今回も日本語台本と訳詞を担当した高橋知伽江さんにプレビューの劇場ロビーで会った時、「9カ月も開幕が遅れて、お客様が戻ってくるか心配だった」と当時の不安な思いを口にしたが、杞憂(きゆう)だった。結果は23万9000枚と、一般発売初日の発売枚数としては劇団記録を更新した。ファンは待っていたのだ。初日のカーテンコールはスタンディングオベーションとなり、規制退場を促す場内アナウンスが流れる中でも拍手は続いたという。

公演パンフレットで劇団四季とディズニーミュージカルの歴史を書かせていただき、最後に、さまざまな障害を乗り越えての開幕は、コロナ禍で公演中止が続くブロードウェーなど世界のミュージカル関係者に「力強いエールとなるに違いない」と書いたけれど、それ以上に、コロナ禍で苦しむ私たちに勇気と希望をもたらしてくれた。奇跡のような作品でもあった。見た人たちは思ったはずだ。待った甲斐があった、と。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)

劇団四季ミュージカル「アナと雪の女王」のゲネプロで。先頭で歌うアナ(三平果歩)と国の人々
劇団四季ミュージカル「アナと雪の女王」のゲネプロで。先頭で歌うアナ(三平果歩)と国の人々